太陽と雪
あまりの話の壮絶さに、私も被っていた布団を退けていた。

相沢さんは、両親から酷い虐待を受けていたという。

頭からお湯をかけられる、熱い風呂に後頭部を掴んで沈められる……

食事は与えられない、部屋に軟禁される……

もはや殺人未遂だ。

今のご時世だと、確実に両親は逮捕される。

その前に、近所から虐待を疑われて通報され、児相がすっ飛んでくるかもしれない。

アメリカなら即、両親から引き離される事案だ。

それから、小学校への入学届や、健康診断の記録が病院になかったことから虐待が明るみに出た。

すぐに両親は逮捕されたという。

そして、城竜二家が管理・管轄するあの養護施設に預けられた。

養護施設にしては、食事がたらふく出たのが子供心に気になっていたようだ。

『当時は、子供らしく喜んでいました。

今となっては適正体重の3分の1しかなかった私を、臓器売買ができるくらいの健康体にしようという目論見だったのでしょう。

しかしながらどうやら私は、遺伝子検査と知能検査、その他様々な検査を経て城竜二家の人間に相応しい優秀な人間と認められたようでしたので。

幸いにも臓器売買のターゲットにされることはなかったのでございますが。

適性のある人間は、厳しく教育することで過酷で辛い環境でも弱音を吐かず、逞しく生きていけるというモットーがありましたので。

朝から晩までお勉強を叩き込まれました。

夜は21時には眠り、途中で目が覚めるなどしたら翌日は夕ご飯が半分になる、というお仕置き付きでした。

私はそのルールが子供ながらに窮屈で、こんなところにいるくらいなら餓死したほうがマシ、とさえ思っておりました。

ある日、私は職員の目を盗んで施設を抜け出し、公園で時間を潰しておりました。

すると、同じ年頃の女の子と仲良くなったのでございます。

そして、その女の子は私に手作りのお守りをプレゼントしてくれたのでございます。

辛いことがあっても挫けないで生き残れるようにと。

その子も、窮屈で自由のない家庭環境に、いささか参っていたようでしたので。

親近感が湧いたのでございます。


恥ずかしながら、人生初めての恋だったと自覚しております』

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