太陽と雪
相沢さんがそこで言葉を切って、例のお守りを見せてくれたわけではなかった。
お守りは、今は訳あって送り主のところに返しているという。
「相沢さん。
そのお守り、刺繍がされていなかった?
虎だったり龍だったり、孔雀だったり。
あまり詳しくない子供だし女の子だから、リアルには出来なくて少し、可愛らしい感じになっているけれど」
急にリビングに足を踏み入れた私に、一同が目を丸くしていたが、構うものか。
『ええ。
私のは孔雀でございました。
大事に持っていましたが、やはり経年劣化で少し色褪せてしまっておりますが』
私は、パソコン画面に向かってお守りを差し出した。
私が差し出したそれには、青い龍が可愛くデフォルメされたものが刺繍されていた。
『彩さま。
なぜ、あなた様がそれを?』
相沢さんの声が、震えていた。
彼は普段は滅多に動揺を顔に出さない人だ。
珍しいこともあるものだ。
「ある人から貰ったのよ。
私と、梓さん、もう1人、相沢さんと同じような境遇でよくリスカをしていた、岡崎 麻未との4人で友情の証って言ってね」
「4人……なるほど。
方位の四神でございますね。
かの有名な安倍晴明も式神として使っていたと名高い玄武、白虎、朱雀、青龍。
それぞれの神を、皆様方のお守りと同時に、絆の証とこれからの人生のための守り神として与えたということでしょうか」
「さすが矢吹ね。慧眼よ。
最も、くれた人は一緒にフランスまでは来たわ。
今はどこで何をしているのか、いないけれど」
「もう、お分かりでは?
相沢。
あなたにお守りをくれた人とは、他ならぬ彩お嬢様のご学友、城竜二 美崎さまなのだと」
「美崎ったら、ネグレクトされてたからなのか、こういうの作るのだけは上手くて。
家庭科の授業ではよく、お世話になったものよ。
私はこういうの、からっきしだから。
エコバッグやらティッシュケースを作る授業なんか、彩っぽく作ったのを渡すから、それを先生に出せば完璧よなんて言ってくれたわ。
ちょっとほつれそうになってるところなんか、私っぽくて。
2人で笑いあったものよ、懐かしいわね。
それで、赤点は免れたんだけどね」
『相沢。
貴方様の主は、気が付いていたみたいですよ?
相沢の隠しきれていなかった想いに。
相沢の美崎さんを見る目がなんだか椎菜さまを見ていた頃の自分と同じだ、と勘繰っていらしたようです。
まぁ、麗眞さまは当然、お気付きになられるでしょうとわかっておりました。
それを敢えて真正面から、相沢の前で口にしないのも麗眞様の優しさ故でしょう。
麗眞さまはわかっていらしたようですし。
美崎様を探していた相沢は、今まで宝月家に勝るとも劣らない名家に使えては、暇を出されて来たそうではありませんか。
きっと、その家に美崎様がいない、あるいは美崎様につながる手掛かりがない。
そう確信した段階で、わざとやる気のない素振りをしていた、といったところでしょうか。
その事情、麗眞さまもわかっていらしたはずで、全てを承知で自分の執事に相沢を選んだのではないでしょうか」
やけに的を得た矢吹の言葉に、相沢さんが目を伏せる。
その瞳は、うっすら濡れていた。
「麗眞ったら、パパに執事は相沢さんがいいって直談判したみたいだしね。
俺が気に入ってた奴もいたのに、困ったなぁとパパが私に愚痴をこぼしていたこともあったわね。
話を聞いて合点がいったわ。
まぁ、当時から初恋の人を探す、そんなロマンティックな事情まで知っていたかは知らないけれどもね。
人を探すって大変なことだっていうのは共感したでしょうね。
麗眞が中学3年のときだったかしら、貴方がこの家に来たの。
当時はもちろん、そんな事情は勘付いていなかったと思うのよ。
だけど、高校を卒業してから、自分がポカをやらかしたくせに、椎菜ちゃんと距離を置くことになったんだもの。
彼女に未練がありまくりで探している自分と、カブって仕方がなかったんじゃないかしら」
ダメ押しの援護をしてやると、画面の中の相沢さんは顔をグイと執事服の袖で拭った。
お守りは、今は訳あって送り主のところに返しているという。
「相沢さん。
そのお守り、刺繍がされていなかった?
虎だったり龍だったり、孔雀だったり。
あまり詳しくない子供だし女の子だから、リアルには出来なくて少し、可愛らしい感じになっているけれど」
急にリビングに足を踏み入れた私に、一同が目を丸くしていたが、構うものか。
『ええ。
私のは孔雀でございました。
大事に持っていましたが、やはり経年劣化で少し色褪せてしまっておりますが』
私は、パソコン画面に向かってお守りを差し出した。
私が差し出したそれには、青い龍が可愛くデフォルメされたものが刺繍されていた。
『彩さま。
なぜ、あなた様がそれを?』
相沢さんの声が、震えていた。
彼は普段は滅多に動揺を顔に出さない人だ。
珍しいこともあるものだ。
「ある人から貰ったのよ。
私と、梓さん、もう1人、相沢さんと同じような境遇でよくリスカをしていた、岡崎 麻未との4人で友情の証って言ってね」
「4人……なるほど。
方位の四神でございますね。
かの有名な安倍晴明も式神として使っていたと名高い玄武、白虎、朱雀、青龍。
それぞれの神を、皆様方のお守りと同時に、絆の証とこれからの人生のための守り神として与えたということでしょうか」
「さすが矢吹ね。慧眼よ。
最も、くれた人は一緒にフランスまでは来たわ。
今はどこで何をしているのか、いないけれど」
「もう、お分かりでは?
相沢。
あなたにお守りをくれた人とは、他ならぬ彩お嬢様のご学友、城竜二 美崎さまなのだと」
「美崎ったら、ネグレクトされてたからなのか、こういうの作るのだけは上手くて。
家庭科の授業ではよく、お世話になったものよ。
私はこういうの、からっきしだから。
エコバッグやらティッシュケースを作る授業なんか、彩っぽく作ったのを渡すから、それを先生に出せば完璧よなんて言ってくれたわ。
ちょっとほつれそうになってるところなんか、私っぽくて。
2人で笑いあったものよ、懐かしいわね。
それで、赤点は免れたんだけどね」
『相沢。
貴方様の主は、気が付いていたみたいですよ?
相沢の隠しきれていなかった想いに。
相沢の美崎さんを見る目がなんだか椎菜さまを見ていた頃の自分と同じだ、と勘繰っていらしたようです。
まぁ、麗眞さまは当然、お気付きになられるでしょうとわかっておりました。
それを敢えて真正面から、相沢の前で口にしないのも麗眞様の優しさ故でしょう。
麗眞さまはわかっていらしたようですし。
美崎様を探していた相沢は、今まで宝月家に勝るとも劣らない名家に使えては、暇を出されて来たそうではありませんか。
きっと、その家に美崎様がいない、あるいは美崎様につながる手掛かりがない。
そう確信した段階で、わざとやる気のない素振りをしていた、といったところでしょうか。
その事情、麗眞さまもわかっていらしたはずで、全てを承知で自分の執事に相沢を選んだのではないでしょうか」
やけに的を得た矢吹の言葉に、相沢さんが目を伏せる。
その瞳は、うっすら濡れていた。
「麗眞ったら、パパに執事は相沢さんがいいって直談判したみたいだしね。
俺が気に入ってた奴もいたのに、困ったなぁとパパが私に愚痴をこぼしていたこともあったわね。
話を聞いて合点がいったわ。
まぁ、当時から初恋の人を探す、そんなロマンティックな事情まで知っていたかは知らないけれどもね。
人を探すって大変なことだっていうのは共感したでしょうね。
麗眞が中学3年のときだったかしら、貴方がこの家に来たの。
当時はもちろん、そんな事情は勘付いていなかったと思うのよ。
だけど、高校を卒業してから、自分がポカをやらかしたくせに、椎菜ちゃんと距離を置くことになったんだもの。
彼女に未練がありまくりで探している自分と、カブって仕方がなかったんじゃないかしら」
ダメ押しの援護をしてやると、画面の中の相沢さんは顔をグイと執事服の袖で拭った。