太陽と雪
さすがに疲れた。

「麗眞、大丈夫?

今日は先にお風呂ゆっくり浸かって、寝る?」

部屋に入るなり、ベッドに思いきりダイブした。

結納と食事会が終わったら、その日の夜にセッティングをして、婚約会見までしたのだ。

矢継ぎ早に繰り出される質問の嵐に、椎菜もある程度冷静に答えていた。

さすが、獣医としていろいろ修羅場をくぐってきただけのことはある。

「悪いな……。

俺より、椎菜の方が疲れた1日だっただろ……」

俺がそう言うと、ふわりと甘い匂いが鼻腔をくすぐった。

彼女が愛用している香水の香りだ。

いつの間にか、彼女が俺の隣に来ていた。

お疲れ様、とでも言うように頭を数回撫でてくれている。

「いろいろ目まぐるしくて、とっても忙しない1日だったけれど。

私は麗眞といられるだけで幸せよ。

それに、一瞬不安になったりもしたけれど。

義理のお姉さんもサポートしてくれて、いろいろ話も聞いてもらったから。

私はひとりじゃない。

支えてくれる人が、あんなにたくさんいるんだ、って。

今日だけでそう思える場面がたくさんあった。

ありがとうね、麗眞。

迷惑かけるかもしれないけど、これからも宜しくね」

椎菜のやつ……

どこまでデキる奥さんなんだよ、まったくもう!

俺が疲労困憊じゃなかったら、絶対に朝まで抱き潰してたところだ。

「こちらこそありがとう。

椎菜がちゃんと、名実ともに俺の妻になってくれて、こんなに嬉しいことはないんだ。

疲れているからこそ、一緒にお風呂浸かりたいけど。

俺が疲労困憊すぎてさ。

明日には気力も体力も回復してると思うから。

ベッドの上で挙式の日取りでも話し合いながらイチャイチャしよっか、椎菜」

……ペチッ。

軽く椎菜に頭を叩かれた。

「んも、麗眞ったら!

相変わらず、そういうことしか考えてないんだから!

疲れたなら早くお風呂入ってきちゃえば?

ってか、早く服脱いでよ!

シワになるでしょ?

せっかく、結納と婚約会見のために上等なスーツ誂えてもらったっていうのに」

「んー?

それはここで俺の裸が見たい、って意思表示でいいの?」

そう囁くと、椎菜が耳まで赤くして、そのままベッドに突っ伏してしまった。

当の彼女は、上質なコーラルピンクのレースワンピースから部屋着用のキャミソールワンピースに着替えている。

その華奢な身体に、そっと薄い布団を掛けてやる。

「そんな無防備な色っぽい格好してると、襲うよ?

俺が戻ってくるまで、いい子にしてて?」

彼女の首筋に、そっと唇を落とす。

ここで我慢だ。

……今は、まだ。

適当な部屋着に着替えてから寝間着を持って、部屋を出た。

シャワーを浴び終えて部屋に戻る。

椎菜は何やら作業をしていたようだが、途中で力尽きたらしい。

ライティングデスクに突っ伏して、すやすやと寝息をたてていた。

「ったく、嫁入りしてすぐの身体なんだから、大事にしろよ……

ただでさえ、病院のお世話になることが多いんだから……」

彼女を抱き上げて、ベッドに寝かせる。

彼女は俺と離れている間に、たまに書いていた交換日記。

俺の知らぬ間に再開していたらしい。

椎菜らしい小さな字で、日記の行が埋め尽くされていた。
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