太陽と雪

晴れ舞台

あっという間に時は過ぎて、2月となった。

まだ吹きすさぶ風が冷たい。

そんな季節の中、俺と椎菜は、有形文化財のあるホテルで、晴れの日を迎えていた。

「おめでとう、麗眞」

「良かったじゃない、いい人を見つけて。
幸せになりなさいよ」

忙しくてめったに会えない、(ともえ)伯母さんと(あかね)伯母さんも、ご祝儀を相場より多めに持って、駆けつけた。

「あの、ちょっと多くない?」

「いいのよ。
有り難く受け取りなさい。

こういう場でもないと、ゆっくり顔見て話せないでしょう。

長らく会えていなかったし、その分の足しだと思ってちょうだい」

「そうそう。

素敵な奥さんと、素敵な家庭を築く助けがこの額で済むなら、むしろ安すぎるわ」

伯母さんたちには、足を向けて寝られないな……

「麗眞くんに椎菜ちゃん。

結婚おめでとう。

幸せになるんだよ」

巴叔母さんの旦那である智司(さとし)さんも来ていた。

ということは。

「おめでとう。
昔のグアムの旅行の時からまるで恋人みたいだったからね。

本当の意味で夫婦になったお祝いの席に参加出来て嬉しいよ」

「麗眞くんに椎菜ちゃん。

2人なら、ちゃんとこの日を迎えられる、そう信じていたわ。

本当におめでとう。

心からお祝いの言葉を送るわ」

優作(ゆうさく)さんと華恵(はなえ)さんだ。

2人共、とても来年で五十路には見えない。

モカグレーのドレスが、華恵さんの落ち着いた雰囲気をより一層引き立てている。

小物はミントグリーンでと白で揃えている。

センスいいよなぁ、華恵さん。

「麗眞さん、この度は、本当におめでとうございます!

お二人なら、末永く幸せに溢れた家庭を築けると思っております」

華恵さんと優作さんの娘、優美(ゆうみ)ちゃん。

キラキラした瞳で、ご祝儀を差し出している。

ピンクのワンピースだが、サテンの切り替えで濃淡を出している。

センスの良さは、両親の血……というより、母親の血を継いだのだろうか。

彼女は、行政書士の見習いとして働いているらしい。

最近後輩もできたとか。

「自分で稼いだお金なんだから、わざわざご祝儀とか、良かったのに」

「いいえ!

旧知の仲の方のお祝いに、ご祝儀を持たずに駆けつけるとか、あり得ませんから。

ここは、素直にありがとうと受け取るところじゃないですか?

麗眞さん」

「そうだね。
ありがとう。

すごく嬉しいよ。

後で椎菜にも顔見せてやってほしいな。

きっと喜ぶから」

礼儀正しいところは、父親の育て方が良かったのかな。

優美ちゃんの妹の優華(ゆうか)ちゃんは、ベージュのブレザーに、ベージュに赤チェックが映えるスカート。

まだ3月までは高校生なので、制服での参加だ。

ご祝儀も、母親が優華ちゃんの分も多めに払ったそうだ。

「おめでとうー!

麗眞くん。

ほんと、学生時代のバカップルがようやくか、って感じね。

幸せにならなきゃ、許さないから」

ラベンダーのレースドレスのデコルテの透け感を、グレーのボレロが抑えている。

こういう組み合わせはさすが深月ちゃんだ。

彼女には、お色直しの前のエスコートを頼んである。

この後、自分たちが式の主役になることは、果たして分かっているのだろうか。

黒はさすがに、ということでネイビーをセレクトしたのだろう。

ドレスは全く着慣れていない様子で、何だか挙動不審なのは理名(りな)ちゃんだ。

隣の拓実(たくみ)に、何度も肩を叩かれている。

声を掛けようとしたところで、控室に呼ばれた。

そろそろ時間のようだ。

『皆様、大変長らくお待たせ致しました!

新郎新婦の入場です!!』

相変わらず、滑舌のいい、太陽のような声。

今は育休でテレビの向こうで見ることのない、美冬(みふゆ)ちゃんの司会で披露宴は始まった。

割れんばかりの歓声と拍手に迎えられる。

彼女の声を聞くと、高校時代のラジオ番組を思い出す。

場はかなり盛り上がっていた。

俺たちの登場までの間のビデオは美冬ちゃんや賢人(けんと)が中心となって作り上げた大作だったようだ。

美冬ちゃんや賢人、一人娘の育児で忙しいだろうに。

よくそんな時間あったよな……

出来が気になるので、後で美冬ちゃんと賢人に頼み込んで、見せてもらおう。
< 257 / 267 >

この作品をシェア

pagetop