太陽と雪
帰宅後、肌映えするピンクの花柄ワンピを着て、平巻きにしていた髪をハーフアップにする。

夕食の前には髪を結うようにしている。

邪魔になるからだ。

食堂にて夜ご飯を食べた。


「さすが矢吹。
私の願いは何でも叶えてくれちゃうのね」


私、何にもメニューのリクエストを言っていない。
なのに、ちゃんとすき焼きが出てきた。

「恐れ入ります」


教科書通り、丁寧に頭を下げる矢吹。


「でも、やっぱり本業が一番気が楽ね。

副業は……荷が重いわ」


「講演中の彩お嬢様は、いつもよりキラキラしていらして、とても魅力的でございました」


「何それ……
当たり障りない感想ね。

まあ……いいわ」


「ったく……

何でそんな、姉さんは嫌うかな。

刑事や検事の仕事。

いいもんだぜ。
人を助けられるんだからな」


そう言って、スリッパのかかとを踏みながら食堂に姿を見せたのは麗眞だった。


「……!!
れ……麗眞……!

何しに来たのよ」


「何しに……って……
飯食いに来たの。

食堂に来て、用事はそれしかないだろ?」


「だからって……

何で急に、ここに来るわけ?

今までどこでご飯食べてたのか知らないし、知りたくもないけど、何で急に来るの?」

「別に。
母さんや父さんに言われたんだよ。
たまには家で飯食えって。

……姉さんも俺に会えなくて寂しがってるって言ってたし」


「はあ?

冗談じゃないわよ。

勘違いも甚だしいわ。

私は……そんなこと一言もパパたちに言ってないわ」


「とにかく……落ち着けよ。
座れって」


急に穏やかな口調で諭されて、とりあえず椅子に座った。


「ごめんなさいね?
矢吹。

しょうもないケンカをみせてしまったわ」

「いいえ。
お気になさらず」


麗眞の執事、相沢さんが彼の食事を給仕。


一番奥の席に向かい合って座る。
だからって、仲が悪いワケではない。


私が食事を食べ終えた後、唐突に聞いてきた麗眞。


「姉さんさ、まだ根に持ってるでしょ?

藤原さんのこと。

傍から見るとバレバレだよ。

多分矢吹さんも気付いてる」


「根に持ってて何が悪いのよ!

昔からバカだバカだと思ってたけど、やはりバカだったわね。

一言多いのよ。

いくらいい大学出ても、そういう、ふとした瞬間のものの言い方に人間性が滲み出るものよ。

だから、愛しの椎菜ちゃんにも距離を置こうと言われたのではなくて?

よくも人の心の傷をえぐるようなこと言ってくれたじゃない!

全く……!

皆勝手なことばっかり言って!
もう知らないわよ!」

「彩お嬢様?」


矢吹が止めるのも聞かず、一方的に言いたいことを言って、食堂を飛び出した。
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