太陽と雪
「そんなことをわざわざ言わなくても大丈夫だと思うわ。
藤原のことを今でも気にかけてるって知ってるはずだから」
パパもママも。
本当は、誰よりも娘である私のことを考えてくれていた。
勝手に思い込んで、視野を狭めていたのは、私の方だ。
物事は、広い視野で、正しく見なければいけない。
そんなことを、少し学んだ気がした。
書斎のソファーベッドに麗眞と2人で座る。
弟と2人、なんて、久しぶりだ。
椎菜ちゃんのことが今でも好きな弟のことだからやましいことはしないだろうが、緊張する。
「何にも……しないでしょうね」
「するわけないだろ。
姉さんは女性としては見てるけどさ、恋愛対象じゃないから。
姉さんと付き合うと、男の側が愛想尽かしそう。
わがままに振り回されるのはもう勘弁だ、ってね。
それに、俺は椎菜にしか興味ないし。
椎菜にしか勃たないし椎菜でしか抜けないの」
「なにそれ。
仮にも、自分の姉の前でそんな破廉恥なこと言う?
それに、そこまで溺愛されてる椎菜ちゃんが不憫よ。
アンタと違って椎菜ちゃんはそこまで体力ないのよ?
アンタの無尽蔵に湧き上がる情欲に付き合ってたら身体壊しそう。
仮に何年後かに妊娠したとして、その間の十月十日。
貴方のその情欲、ちゃんと制御できるのか心配だわ、まったく」
椎菜ちゃんが麗眞の子供を妊娠して、流産したことは伏せておく。
そのことは麗眞は知らない。
彼女曰く、麗眞と遠距離恋愛をしている間は、アナログな交換日記でのやり取りもしていたそう。
その日記に、妊娠のこと、流産のこと、水子供養をしてもらった寺の住所まで、記してあるとのこと。
それを麗眞が見ない限り、気付くことはない。
「彩お嬢さま、麗眞さま。
今は、そんなささやかな姉弟ケンカをしている場合ではないのでは?」
矢吹にたしなめられて、書斎にある藤原の事件のファイルを探す。
ファイルの数は膨大だ。
書斎に置いてあるパソコンを急いで起動して、
図書館にある検索機さながらに、キーワードを入れる。
「藤原」というキーワードだけでは、百件近くヒットした。
いや、多すぎでしょ……
これをしらみつぶしにあたっていっては、さすがに夜が明けてしまう。
もう少し、絞れないか。
「姉さん、そのデータベース、被害者の欄に入れてみ?
藤原さんの苗字。
それで、少しは絞れるはず。
麗眞の言う通り、キーワードを打ち込み、検索ボタンにカーソルを合わせる。
「検索中」の表示が出ている間、はやる気持ちを抑える。
検索結果は20件。
見れない数ではない。
事件や事故の種別で絞って、ファイルが仕舞ってある場所をようやく突き止めた。
「やったな、姉さん」
「麗眞のおかげよ」
やっと見つけたファイルを開いてみた。
これで、藤原の事件の謎が分かる。
その瞬間、麗眞と2人で顔を見合わせた。
藤原の事件のファイルだけがすっぽり無くなっていたのだ。
「何で……?
何で……藤原の事件のファイルだけ……あるべき場所にないの?」
「落ち着けって、姉さん。
盗まれたとは到底考えにくい。
この家……セキュリティーは鉄壁だからな」
「でも……じゃあ何で……」
「頭とカンがいい父さんたちのことだ。
何かあるんだろ、この事件。
オレたちに隠しておきたい"何か"が」
"何か"って……何なのよ…!
それが何なのかは分からない。
だけど……それを聞いたとき、とてつもなく嫌な予感がしたのを、今でも鮮明に覚えている。
まさか、宝月の家の中に、他の財閥の使用人が変装してスパイをしている、とか?
日本のドーム球場何十個も入る広大な、この宝月の屋敷。
使用人は数千人いる。
仮に他家の使用人が紛れ込んでいても、わからないだろう。
その想像を、そっと矢吹に耳打ちする。
「有り得ない線ではございません。
そういう方がいないか、私も様々な機関と協力しながら調査いたします。
彩お嬢さまの不安を取り除くことが、執事の務めでございますから」
「とにかく、何もわからないのにいつまでもここにいても仕方ない。
ここ寒いし、体冷える。
姉さんも病み上がりだろ。
風邪ぶり返すと酷くなることもあるし、それはさせたくない。
今日は寝ようぜ」
麗眞の言うとおりだ。
部屋に戻って眠ることにした。
その"何か"の手がかりを掴んだのは……この騒動から数ヶ月が経った頃だったんだ。
藤原のことを今でも気にかけてるって知ってるはずだから」
パパもママも。
本当は、誰よりも娘である私のことを考えてくれていた。
勝手に思い込んで、視野を狭めていたのは、私の方だ。
物事は、広い視野で、正しく見なければいけない。
そんなことを、少し学んだ気がした。
書斎のソファーベッドに麗眞と2人で座る。
弟と2人、なんて、久しぶりだ。
椎菜ちゃんのことが今でも好きな弟のことだからやましいことはしないだろうが、緊張する。
「何にも……しないでしょうね」
「するわけないだろ。
姉さんは女性としては見てるけどさ、恋愛対象じゃないから。
姉さんと付き合うと、男の側が愛想尽かしそう。
わがままに振り回されるのはもう勘弁だ、ってね。
それに、俺は椎菜にしか興味ないし。
椎菜にしか勃たないし椎菜でしか抜けないの」
「なにそれ。
仮にも、自分の姉の前でそんな破廉恥なこと言う?
それに、そこまで溺愛されてる椎菜ちゃんが不憫よ。
アンタと違って椎菜ちゃんはそこまで体力ないのよ?
アンタの無尽蔵に湧き上がる情欲に付き合ってたら身体壊しそう。
仮に何年後かに妊娠したとして、その間の十月十日。
貴方のその情欲、ちゃんと制御できるのか心配だわ、まったく」
椎菜ちゃんが麗眞の子供を妊娠して、流産したことは伏せておく。
そのことは麗眞は知らない。
彼女曰く、麗眞と遠距離恋愛をしている間は、アナログな交換日記でのやり取りもしていたそう。
その日記に、妊娠のこと、流産のこと、水子供養をしてもらった寺の住所まで、記してあるとのこと。
それを麗眞が見ない限り、気付くことはない。
「彩お嬢さま、麗眞さま。
今は、そんなささやかな姉弟ケンカをしている場合ではないのでは?」
矢吹にたしなめられて、書斎にある藤原の事件のファイルを探す。
ファイルの数は膨大だ。
書斎に置いてあるパソコンを急いで起動して、
図書館にある検索機さながらに、キーワードを入れる。
「藤原」というキーワードだけでは、百件近くヒットした。
いや、多すぎでしょ……
これをしらみつぶしにあたっていっては、さすがに夜が明けてしまう。
もう少し、絞れないか。
「姉さん、そのデータベース、被害者の欄に入れてみ?
藤原さんの苗字。
それで、少しは絞れるはず。
麗眞の言う通り、キーワードを打ち込み、検索ボタンにカーソルを合わせる。
「検索中」の表示が出ている間、はやる気持ちを抑える。
検索結果は20件。
見れない数ではない。
事件や事故の種別で絞って、ファイルが仕舞ってある場所をようやく突き止めた。
「やったな、姉さん」
「麗眞のおかげよ」
やっと見つけたファイルを開いてみた。
これで、藤原の事件の謎が分かる。
その瞬間、麗眞と2人で顔を見合わせた。
藤原の事件のファイルだけがすっぽり無くなっていたのだ。
「何で……?
何で……藤原の事件のファイルだけ……あるべき場所にないの?」
「落ち着けって、姉さん。
盗まれたとは到底考えにくい。
この家……セキュリティーは鉄壁だからな」
「でも……じゃあ何で……」
「頭とカンがいい父さんたちのことだ。
何かあるんだろ、この事件。
オレたちに隠しておきたい"何か"が」
"何か"って……何なのよ…!
それが何なのかは分からない。
だけど……それを聞いたとき、とてつもなく嫌な予感がしたのを、今でも鮮明に覚えている。
まさか、宝月の家の中に、他の財閥の使用人が変装してスパイをしている、とか?
日本のドーム球場何十個も入る広大な、この宝月の屋敷。
使用人は数千人いる。
仮に他家の使用人が紛れ込んでいても、わからないだろう。
その想像を、そっと矢吹に耳打ちする。
「有り得ない線ではございません。
そういう方がいないか、私も様々な機関と協力しながら調査いたします。
彩お嬢さまの不安を取り除くことが、執事の務めでございますから」
「とにかく、何もわからないのにいつまでもここにいても仕方ない。
ここ寒いし、体冷える。
姉さんも病み上がりだろ。
風邪ぶり返すと酷くなることもあるし、それはさせたくない。
今日は寝ようぜ」
麗眞の言うとおりだ。
部屋に戻って眠ることにした。
その"何か"の手がかりを掴んだのは……この騒動から数ヶ月が経った頃だったんだ。