太陽と雪
「珍しいわね。

彩ちゃんが、私に話なんて。

何か、お友達からの相談事?

それとも、レンの……貴女のパパについてのことかしら」


そう言いながら、リビングで紅茶の準備をする華恵さんとさりげなくそれを手伝う矢吹。

「ありがとう。

そんなに気を使わなくていいのよ?

仮にも貴女たちはお客さまなんだから」


「いいえ。
これくらいはなさらないと。

貴女さまは優秀な弁護士でいらっしゃる。

きっと他の依頼も殺到している最中でございましょう。

それに、情報番組のコメンテーターもしていらっしゃる。

そんな中、彩お嬢様のワガママに貴重な時間を割いて下さるのですから」


今、さらっとヒドイこと言ったわよね?

お嬢様がワガママで何が悪いのかしら。

まあ……彩ちゃんは優しいから、聞かなかったことにしておいてあげるわ。

単刀直入に問いかける。

「最近……会いました?
パパに」

「ええ。

昨日も会ったわ。

レンにしては浮かない顔してたから、何かあったのか聞いても教えてくれなかったのよ」


「そう……ですか」


「だけどね……

私の前ではどんなポーカーフェイスをしても、嘘を突き通すことは出来ないからね」


そう言ったとき、矢吹が口を挟んだ。


「華恵さまが身に付けていらっしゃる、腕輪でございますね。

それは、今向かいあっている相手の僅かな緊張の動作に反応するもの……

自分の隠し事や嘘の核心に触れたとき、相手の動揺や緊張が唾を飲み込むといった動作に現れる。

腕輪の使用者本人が腕輪の収縮を感じ取ることで、相手が隠し事をしている、と分かるのではないですか?」


「さすがはレンの家にいる執事さん。
彼から聞いたのね?」


「ええ。

旦那さまの秘書から聞いたのですが、しきりに恵さまと会うことを避けておりました。

貴女と鉢合わせそうなルートを避けて通っていましたし。

それだけではなく、弁護士の卵を法廷見学させるとそそのかし、貴女さまの予定を把握することも行おうとしておりました。

隠し事をしている今、華恵さまに会うと嘘を見破られる、と思ったからでございますよ」


「え……そうなの?」


そんなの……全然知らなかった……


「隠し事をしているのはすぐ分かった。

だから、私の旦那の、優作の名前を使ってレンを呼びつけたわ。

彩ちゃん。

貴女の執事さんのことよ。

彩ちゃんには絶対に言わない条件で、今から話してもらうところだったの」

私……とんでもないタイミングでお邪魔しちゃったのね……。


「彩ちゃんからも、話が聞きたいのよ。

私は事の次第をよく知らないの。

ねぇ、彩ちゃんの執事さんのことで、レンが隠すようなこと……あるの?」

華恵さんは、私の眼をまっすぐ見つめて、そう言った。
藤原のことだ。

矢吹には何も後ろめたいことなんてない。
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