太陽と雪
私は、華恵さんに全てを話した。
もう、10年前の事故のこと。
その、現時点での詳細な情報。
その事故を扱った新聞記事ファイルの中身がこつぜんと消えていたこと。
「なるほど……
そういうことなのね。
ごめんなさいね。
そのこと、全然気が付かなくて。
優華の育児で手一杯だったの。
確かにそれは……無関係ではないわね。
そのファイル、保管していたのはレン1人なんだものね」
「はい……」
彼女も弁護士だ。
口は堅い。
職業柄、プライバシーに関わる話をおいそれと何の関係もない他人に話す人間ではない。
こういう相談をする相手としては、うってつけだ。
「分かったわ。
親友の娘の頼みだもの。
私も調べてあげる。
裁判所の地下の図書館にならもっと詳しい資料があるかもしれないからね」
「ありがとうございます!」
「じゃあ……レンが仕切りに隠しているのは、藤原さんのことなのね、おそらくは。
でも……何で隠したりするんだろ。
彩ちゃんもある意味で被害者なのよ。
実際に怪我をしたとか、実害に遭ったわけではないけれど。
今まで傍にいた大事な人を、突然失った。
心の傷は深いんだから、包み隠さず話してあげればいいのに」
「それはおそらく……彩お嬢様のためでしょう」
私の……ため……?
「まだ、彩お嬢様は藤原さまのことが心に深く残っていらっしゃる。
また、その当時の事故のことがフラッシュバックする可能性も十分にございます。
そんな状態で話をしても、彩お嬢さまの傷口を深くえぐるだけだと考えているのだと、使用人の立場からお見受けいたします」
何となく、心の整理がついた。
「うん、その可能性もあるけれど。
もう1つの可能性としてあり得るのが、1つだけあるわ。
何か気になることがあって、レン自身も藤原さんのことを、自分なりに調査している、とかね」
確かに、その線の方が濃厚そうではある。
「でも……せっかくだから、パパの口から直接聞いておきたい。
パパが本当に、藤原のこと知っててわざと隠しているのか」
「彩お嬢様?
自分から苦しい道をお選びになるのですか?
どうかお考え直しを……」
「矢吹。
何で止めるのかしら。
真実をちゃんと知りたいのよ。
それが藤原のためでしょ?」
「大丈夫よ、矢吹さん。
宝月の血を引く人の心の強さ。
それは私が保証するわ。
弁護士の保証、心もとないかしら?
私は何度も見てきてるから。
彩ちゃんのお母さんもね、強い人だわ。
その血はちゃんと、貴女にも受け継がれているはずよ」
「さ、行きましょう、レンのところに」
紅茶を勧めて、私が紅茶を飲み終えるのを待ってくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。
紅茶、お口に合ったかしら」
「はい、とっても美味しかったです」
「それはよかったわ。
さあ。案内するから、ついてきてくださるかしら」
そう言う華恵さんの後を、スリッパをつっかけながら追いかけた。
もう、10年前の事故のこと。
その、現時点での詳細な情報。
その事故を扱った新聞記事ファイルの中身がこつぜんと消えていたこと。
「なるほど……
そういうことなのね。
ごめんなさいね。
そのこと、全然気が付かなくて。
優華の育児で手一杯だったの。
確かにそれは……無関係ではないわね。
そのファイル、保管していたのはレン1人なんだものね」
「はい……」
彼女も弁護士だ。
口は堅い。
職業柄、プライバシーに関わる話をおいそれと何の関係もない他人に話す人間ではない。
こういう相談をする相手としては、うってつけだ。
「分かったわ。
親友の娘の頼みだもの。
私も調べてあげる。
裁判所の地下の図書館にならもっと詳しい資料があるかもしれないからね」
「ありがとうございます!」
「じゃあ……レンが仕切りに隠しているのは、藤原さんのことなのね、おそらくは。
でも……何で隠したりするんだろ。
彩ちゃんもある意味で被害者なのよ。
実際に怪我をしたとか、実害に遭ったわけではないけれど。
今まで傍にいた大事な人を、突然失った。
心の傷は深いんだから、包み隠さず話してあげればいいのに」
「それはおそらく……彩お嬢様のためでしょう」
私の……ため……?
「まだ、彩お嬢様は藤原さまのことが心に深く残っていらっしゃる。
また、その当時の事故のことがフラッシュバックする可能性も十分にございます。
そんな状態で話をしても、彩お嬢さまの傷口を深くえぐるだけだと考えているのだと、使用人の立場からお見受けいたします」
何となく、心の整理がついた。
「うん、その可能性もあるけれど。
もう1つの可能性としてあり得るのが、1つだけあるわ。
何か気になることがあって、レン自身も藤原さんのことを、自分なりに調査している、とかね」
確かに、その線の方が濃厚そうではある。
「でも……せっかくだから、パパの口から直接聞いておきたい。
パパが本当に、藤原のこと知っててわざと隠しているのか」
「彩お嬢様?
自分から苦しい道をお選びになるのですか?
どうかお考え直しを……」
「矢吹。
何で止めるのかしら。
真実をちゃんと知りたいのよ。
それが藤原のためでしょ?」
「大丈夫よ、矢吹さん。
宝月の血を引く人の心の強さ。
それは私が保証するわ。
弁護士の保証、心もとないかしら?
私は何度も見てきてるから。
彩ちゃんのお母さんもね、強い人だわ。
その血はちゃんと、貴女にも受け継がれているはずよ」
「さ、行きましょう、レンのところに」
紅茶を勧めて、私が紅茶を飲み終えるのを待ってくれた。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。
紅茶、お口に合ったかしら」
「はい、とっても美味しかったです」
「それはよかったわ。
さあ。案内するから、ついてきてくださるかしら」
そう言う華恵さんの後を、スリッパをつっかけながら追いかけた。