太陽と雪

｢ねぇパパ。
藤原のこと、何か知ってるでしょ？
教えて！」


｢彩か。

……ここに来ていたんだな。

お前には関係ないことだ。

藤原のことはいい加減に忘れろ。

もう……彼はこの世にいないんだからな｣


｢嘘よ！
レン、ホントは貴方にも分かんないんでしょ？
藤原さんの消息……｣


｢ハナ……？
なんでお前、ここに。
入ってくるなって言わなかったっけ？｣


｢そんなこと言われたかしら。

覚えてないわね。

貴方が『もう……彼はこの世にいないんだから……な』
って言ったとき、レンはほんの一瞬、目を伏せたわよね。

貴方の昔からのクセなんて、幼馴染だからこそ、わかっちゃうのよ。

甘く見ないでよね。

レン、自分にとって都合が悪くなると悟られまいと伏し目がちになるの。

幼馴染なんだから、知ってるわよね？

私の前では嘘をつき通すことは出来ない、って｣


｢やっぱりバレたか。

さすが……だな。

だてに俺の幼馴染やってないってか。

ハナ、お前さ、祖母の形見の腕輪の能力を知ってから余計にそういうの……鋭くなったよな。

しばらく法廷で敗訴したこと、ないもんな。

見事だよ。
……俺の負け｣


パパ……そうなの？

藤原の消息……分からないの？


｢いい加減……彩ちゃんに話してあげたら？

貴方が彩ちゃんの心の傷を増やすまいとする優しさは十分､伝わってると思うから。

いい父親ね、貴方も。

最初は、貴方が人の親なんて務まるのか、心配にはなったけど。

しかも意外にも私とミツより先にパパになるなんて思ってもみなかったわ。

彩ちゃんと麗眞くんを見る限り、ちゃんと、いい子に育ってるじゃない。

私も見習わなきゃね｣


「まったくだ。

アイドルばっかりにかまけている父親を持つとここぞとばかりに反抗期に荒れるとばかり思っていた。

だが、そんなことはなかったな。

レン、お前の娘も息子も。
まっすぐ育ったじゃないか。

息子なんて、言動が昔のレンにそっくりだぞ」

不覚にも、華恵さんと優作さんの言葉に涙が溢れそうになった。

ヤバいヤバい。

こんなとこで泣いちゃ、お嬢様失格ね。


｢パパ……ホントなの？｣


｢ああ。
そうだよ。

何せ……遺体の損傷が激しくて身元も特定できなかったんだ。

もしかして、もしかしたらの話だ。

遺体が藤原くんじゃない、別の誰かの可能性だってゼロではないだろう？

その可能性も視野に入れて、パパ自身も調査しているところだよ｣


｢そうだったんだ……
ありがと｡

私のために、わざと言わないでいてくれて｣


｢当たり前だろ？

パパの大事な娘だ。

娘を不安にさせる父親なんて、父親失格だからな｣


｢レンって、彩ちゃんの前だとアイドルオーラもFBIカガク捜査官オーラも、皆無ね｣


華恵さんの､少し呆れたような声。


｢それでこそ旦那さまでございますよ。
彩お嬢様、良かったですね｣

矢吹にそっと、頭を撫でられる。


｢ありがとうございます。華恵さん。
お邪魔しました。

紅茶、ごちそうさまでした｣


｢いいのよ。

またいつでも来てね？

その時は事前に連絡をくれると助かるわ。

次来るときは、優美もいるときがいいわね。

あの子ったら、今は一人暮らしなのだけれど、連絡もしないで突然帰ってくるから｣


パパはもう少し華恵さんと、優作さんと話して帰るという。

だから私と矢吹だけ先にお暇した。


藤原がどこかで生きてるかも……

少し、希望が見えてきた。

藤原が生きていたら、何て言おう？

言いたいことは、たくさんある。

そんな微かな望みが打ち砕かれる秋が近付くまで、あと半年もなかった。