太陽と雪

バカンス

はあ。

ダメだ。

逆効果だったのかも。

藤原のことを、必死になって調べたの。

気になって仕方がない。
夜も眠れない日が続いた。


分かんないよ。
もしも……
本当に生きているのなら……

今……貴方はどこにいるの?


そんな中、いつもと変わらぬパンのバイキング朝食の最中に矢吹が言ってきた。


「彩お嬢様。

今日から奥様と旦那さまはアメリカのほうに旅行に行かれるそうです」


「あ、そう」

どうせ、またMLB絡みだろう。

いいなぁ。

旅行……かあ。


「行かれますか?
お嬢様も」


「私は……
今は……そんな気分じゃないから結構よ」


「そうでございますか…」


そう言う矢吹は、いつになくしゅんとした表情をした。


いつから来ていたのか。

横に座って何食わぬ顔でフランスパンを食べていた麗眞が、口を挟む。


「なら、お祭りでも行くか。
地方だけど、花火キレイらしいぜ」

「麗眞!?
貴方、いつの間に?」


花火……かあ……


そんなキレイなの?


「お嬢様。

いくら世間知らずのお嬢様でも、花火を見たことがない、なんてことはありませんよね?」


はあ?

そんなこと……あるわけないわ!

小さいことに隅田川の花火大会に連れて行かれたわ。

音にビックリしてずっと泣いていたということをママから聞かされたけれど。

「では……参りますか。

とある、日本国内にあるテーマパークでございます。

所在地と名前が一致していないため、少々ゲストを戸惑わせる、しかし、ロマンあふれる夢の国でございます。

そこに隣接するホテルの貸し切りは既に完了しております」


さすが……執事。

仕事が早いわね……


「気分転換に……いいだろ?

姉さん。

藤原さんのことを一度頭から追い出すために、さ。

思い切り羽伸ばそうぜ。

俺もちょっとは学生気分に戻ってはしゃぐか」


お見通しだったのね。

麗眞には……全部。
さすが、私の弟ね。


「ありがとう」

「どういたしまして。

姉さん、分かりやすくていいよ。

そういうとこ、椎菜と似ててなんか癪だけど」

「前言撤回。

やっぱり一言余計よ!」

「お祭りの翌日は……テーマパークにて思う存分、おくつろぎくださいませ」


いいのかな……

お祭りを通り越して、思いきり

"バカンス"


じゃないの。


楽しそう。

久しぶりに気晴らしになるわね。

「行くわよっ!
矢吹、ヘリっ!!」


「言われなくても、もうご用意してございますよ。

奥ゆかしい方ですね、お嬢様は。

さぁ、その前にお部屋に戻りませんと。

準備をしてから、ヘリで参りましょう。
30分後にヘリポートに集合でございます」

そうは言ったものの、服やら髪の準備に手間取り、ヘリポートに行ったのは出発の10分前。

「遅えよ、姉さん。

ま、椎菜には及ばないけどそれでも可愛い。

ホラ、早く乗れ。
行くってよ」

麗眞と矢吹に手を引かれて席に座らされたあと、ヘリは飛び立った。

それにしても、いちいち自分の想い人と私を重ねるな!

まったく、癪に障る弟ね。
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