太陽と雪
梅雨もようやく明けて、すっかり夏の強烈な日射しが降り注いでいた。

ヘリでも、サングラスは欠かせないわよね。


「なんだ姉さん、セレブ気取りか。

姉さんはいいけど、セレブじゃないやつがそれやると、イタいだけだぜ?」


「何よ麗眞!

私も、パパとママの娘よ?

社長令嬢。
世界屈指のお嬢様よ?

本物のセレブなんだから、それくらいいいでしょう。

何を着ようが、私の勝手でしょう!」

そりゃ、気分転換に、夏祭り行って花火見に行こうなんて提案してくれるのはありがたかったけど。

イタいっていう言い方はないでしょ?
貴方それでも……私の弟?


「彩お嬢様、麗眞さま。

テーマパークでの3泊4日遊び放題を先にどうぞ。

その後、県内最大の花火大会を見学に参りましょう」


あら?

当初の予定では、花火大会が先じゃなかったかしら。
まぁ、いいわ。

予定調和も行き当たりばったりも、この際、大歓迎だわ。


「あら、そうなの。
わざわざ教えてくれてありがとう、矢吹」


ここから、1時間30分で目的のテーマパークに到着らしい。


何でも、近くのホテルに泊まることで、隣接する2つのパークの敷地が往復可能になるのだそうだ。

泊まるのはエントランスからも見えるオフィシャルホテルらしいけど。


「姉さん。
テーマパークでも、夜に花火上がるって!

いいよな、花火。

俺も、昔椎菜と花火大会行ったときのこと思い出すな。

花火も綺麗だったけど。

花火より椎菜の浴衣姿が綺麗で色っぽくて。

花火大会終わった瞬間、相沢に頼んで屋敷まで送ってもらって。

遅いから泊まってけ、って言ってそのまま椎菜と夜過ごしたっけな。

鳴き声も可愛かったぜ」


麗眞の昔話という名の惚気が始まった。

今でも椎菜ちゃんに気があるのなら、連絡をして気持ちでも伝えたらどうなのよ!

とは、とても言えなかった。

当人の問題は、当人に任せよう。

他人が口を挟むべき問題ではない。

それに、いつかは椎菜ちゃんから麗眞に伝えられることになる、彼女が妊娠と流産をしたという事実。

それを彼が受け止めきれるかが今は不安だ。

まだ続いている麗眞の惚気を適当に聞き流す。

いつまで続くのよ、これ……

ウトウトとまどろんでいると予定より15分早い時間にテーマパークへ降り立った。

空気が美味しい。

いつもの広大な屋敷で吸う空気の何億倍も美味しい気がした。

さぞかし、たくさんの人でテーマパーク内が賑わっているのかと思ったら、私たち以外いなかった。

なんで!?

「おや、前にも申しましたよ?

貸切でございます。

お嬢様とお坊ちゃま。
皆様方のみで、ごゆるりとお楽しみを」

その言葉に、我ながら背筋が凍った。

貸切……?
この、宝月の屋敷と同じか、
それよりは少し狭いくらいの敷地の、このテーマパークを!?

自分の所属する「宝月」という家のセレブ度合いが、身に染みて分かった気がした。

「はぁ。
いよいよね。

童心にかえって楽しむわよ!

今は、辛いこと、全部忘れるんだから!」


動物病院の同僚や、鑑識医の仲間にもお土産を頼まれている。

こういうときにチョイスのセンスが出るから、ちゃんとしたものを選ばないとね。


ホテルに荷物を預けてから、さっそくエントランスへ。

ホテルに泊まることを言えば、宿泊客用の入り口から入れるみたいで助かった。

「早く行くわよ?
ほら、ボーッとしない!」


麗眞と矢吹の手を、犬を散歩する飼い主さながらに引っ張りながら、エントランスを走り抜けた。
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