太陽と雪
「お嬢様は意地っ張りですからね。

聞き出すの…苦労しましたよ。

さきほどのコースターが原因ですね、ご気分が悪くなったのは。

世にいう乗り物酔いでございます」


「矢吹。

やっぱり……超有名テーマパークに来てもド天然なうえに、バカなのね。

この私が乗り物酔いなんてするわけないでしょ?

だって車の運転免許持ってる……ケホッ!
うぅ……気持ち悪い」


言っているそばからえずいてしまうのを、矢吹と相沢さんによって介抱された。

麗眞も、心配そうに見下ろしている。

「相沢。
横にさせろ。

体勢を楽にしたほうがいい」


相沢さんにそんな生意気な口聞いていいの?


「姉さん。

相沢は矢吹さんより半年後だから。

この宝月家に来たの。

実際に執事になったか、じゃないんだよ。

この宝月家に雇われて執事見習いになった日が早いか遅いかで先輩後輩が決まるって、親父が言ってた」


そうなんだ……


「姉さんは、自分の心配しろ?」


「麗眞さまの言う通りでございます。

お嬢様、運転免許の所持と乗り物酔いには何ら関係がございません。

さすがはお嬢様。

世間知らずでいらっしゃいますね」


お嬢様が世間知らずで何が悪いのよ。

蝶よ花よとパパとママに大事に育てられてきた、箱入り娘よ。


それにしても、矢吹の声がやけに近くで聞こえている気がする。

落ち着く声音だ。

ファの音程の音。

子守唄でも歌ってくれたら、一瞬で眠れる気がする。

と思ったら、矢吹の膝に頭を乗せていた。


「きゃあっ!!
何、この状況!!」


「失礼いたしました。
お嬢様を早く回復させるためにはこれしかないと思いまして」


恥ずかしいっつーの!

貸切だから誰も見ていないとはいえ……
こんなところで……


「もう……」


でも、なんだろ。

彼の膝から微かに感じる体温が温かくて……
心地よくて。

ほんの少し。

少しだけ……

私の心の中にある、固い大きな氷が、溶かされた気がした。


「嫌じゃないの?矢吹。

仮にも、30歳の……年頃の女の子よ?

そんな子を、誰も見ていないとはいえ、こんなところで膝枕するなんて」

「何をおっしゃいます、彩お嬢さま。

むしろ、私なんかを信頼してお身体を預けていただいていること、執事冥利に尽きます。

私自身の身体をフルに使い果たして、彩お嬢さまを私の寿命が尽きるまで、お傍でお守り致します。

それが、旦那さまとの契約でございます」

「お嬢さまこそ、いいのでございますか?

お嬢さまより10も年の離れたオジサンでございますが……。

時々、思うことがございます。

お嬢さまには、私より、もっと年の近い殿方のほうがお似合いなのではないか、と」

「バカね。

私は矢吹がいいのよ。

それに、ある程度年が離れたほうが……

一夜の過ちとかそういうの、ないでしょうからパパも安心でしょ」


「姉さん、早く回復してくんね?

男2人、姉さんと矢吹さんのイチャつきを見てるこっちの身にもなれって」

「横槍を入れるな!

しかも、イチャついてないし!

アンタこそ空気読め、麗眞ぁ!」

せっかく、男の人への警戒心が少し解けたところだったのに!
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