太陽と雪
ホテルに戻って、赤のパンプスを脱ぐ。

その瞬間、脚に鋭い痛みが走った。


「いったぁ……い!」


「彩お嬢様!?
……失礼致しますっ」


少し焦ったような表情を浮かべて、踵とつま先の傷を確認する矢吹。


皮は剥けており、左の踵には水ぶくれが出来ていた。
痛々しい。

「お嬢様……。
これは……。

世に言う靴擦れでございますね。

8センチのヒール靴で何時間も歩き続ければ、誰でもそうなるのが当然でございます」


「もうっ……

私にヒールの高い靴を履くなと言いたいの?
痛くて歩けないのよ。

とにかく早く何とかしなさいよコレ!!」


「とりあえず、私は手当てのための道具を持って参ります。

その間、お嬢様はお着替えください。

濡れたままでは風邪をひきますよ」


言われなくても着替えるわよ!


矢吹のヤツ……いつもは着替えている間も部屋にいるくせに。

なんで今日はいないのよ。

いつもいる人が部屋にいないの、少し寂しいのよ。


白いベアタイプのコットンワンピを着て、彼を待つ。

「おっそーい。

それでも私の執事?

ちょっと動かすだけでも痛いんだから」


「申し訳ございません。

お嬢さま、しみるでしょうが、我慢してくださいませ」

ゆっくりゆっくり、壊れ物を扱うように丁寧に手当てしてくれた。


「いったい……」


消毒薬ってこんなしみるっけ?

痛いと声に出したからか、余計に痛い気がする。

心と体は連動しているって、中学校の授業で誰かが言っていた。
あれ、本当だったのね。


「お嬢様は消毒薬すらもご存じないのでございますね」


まあ、義務教育時代からあまり大きな怪我をした記憶、ないから。

それだけは密かな自慢だ。


「消毒薬くらい知ってるわよ!
いくら世間知らずな箱入り娘でもね。
子供扱いしないでほしいわ。
まったく」


そう言っている間にも、手当ては完了した。


「ありがと」


ダンガリー素材のシャツを羽織って、ベッドに横になる。


「少し寝る。
散々だったし。

夕食食べるってなったら起こしてくれると助かるわ。

誰かさんのせいで……
羽を伸ばすどころか気疲れしたから」

そっけなく矢吹に言い放ってから、彼の顔をなるべく見ないように布団に潜った。
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