太陽と雪
波乱の予感
〈麗眞side〉
俺が、夕食を終えて、相沢とともに、自分の部屋に戻ったときのことだった。
廊下の突き当たりから、誰かの話し声がした。
その声は、聞き覚えのあるものだった。
俺の顔が強張るのが分かった。
もう一方は分からないが、もう一方の声は。
俺が、今でも会いたくて仕方がない、愛しい女の声だったからだ。
「相沢、静かにしろ」
忠実な俺の執事、相沢に命じる。
彼はすでに、分かっているようだった。
俺が、この場で相手の会話を盗み聞きし、「盗音機」と呼ばれる機械にそれを録音するつもりのこと。
「息、殺してろよ?」
「分かっておりますよ、お坊っちゃま」
俺と同じく小声で応対してくれた相沢。
賢い執事で、ホントに助かる。
『分かってるわね?
矢榛 椎菜。
自信を持つの。
貴方の優勝は決まっているのよ?』
『で……でも……』
『でも……じゃないわ。
私の有能な執事が、すでに準備を進めているから心配は無用よ。
必ず……北村動物病院が獣医師を決める……このコンテストに参加せざるを得ないように。
経営者の宝月 彩。
アイツを蹴落とすいいチャンスよ』
『で……でも……宝月家ってことは……
れ、麗眞にも迷惑かかるんじゃ……
お願い、それだけはやめて!
大好きな人に迷惑かけるなんて、それは出来ない!』
『安心なさいな。
貴方が協力してくれるなら……宝月彩の弟には迷惑はかけない。
私の執事が株価操作をして……病院に影響する会社の株を暴落させるわ。
被害を被るのは宝月 彩だけよ』
『はあ……わかりました……』
『よろしくね。
貴方が裏切った場合……許さないわよ?
貴女のママやパパ…叔母の首だって……いつでも飛ばせるんだからね?
城竜二財閥は。
それから、婚約できるくらい、学生時代からラブラブだったその、宝月 彩の弟。
ソイツへの唯一の秘密もバラすわよ。
ショックを受けるでしょうね。
本当に貴女のことを嫌いになるかもね?彼。
ふふ。
さ、分かったら早く戻ることね』
そんな会話だった。
その名を、大声で呼びたいのを必死に堪えながら椎菜と呼ばれた女の気配が過ぎ去ったのを確認した。
本当は、今すぐにでも名前を呼んで、抱きしめてやりたい。
学生時代から俺に秘密なんて作ったことのない椎菜。
お互いいい年齢だ。
いつまでも学生の時とは違うことは分かっている。
唯一の秘密とは何なのか、彼女を追って尋ねたい。
どんな秘密でも、俺は椎菜を嫌いになんて絶対にならない。
それだけは自信がある。
しかし、今、それをするべきではないのは、俺自身が一番わかっていた。
俺は城竜二 美崎に歩み寄った。
初めて生で見るな……
城竜二財閥の時期当主。
姉さんとほぼ同じ身長の女。
「ほ……宝月 麗眞!
「最後の言葉だけは聞いたぞ。
姉さんを陥れて何をするつもりだ?
あとは、俺の大事な椎菜に何かしたら俺はお前を一生許さないからな。
そうだ、これだけは言っておく。
姉さんは……まだ頑なに信じてるからな?
お前のこと。
昔みたいに……優しいお前に戻ってくれるって」
それだけ、告げてやった。
このことは、姉さんにはまだ言わないでおこう。
俺が、夕食を終えて、相沢とともに、自分の部屋に戻ったときのことだった。
廊下の突き当たりから、誰かの話し声がした。
その声は、聞き覚えのあるものだった。
俺の顔が強張るのが分かった。
もう一方は分からないが、もう一方の声は。
俺が、今でも会いたくて仕方がない、愛しい女の声だったからだ。
「相沢、静かにしろ」
忠実な俺の執事、相沢に命じる。
彼はすでに、分かっているようだった。
俺が、この場で相手の会話を盗み聞きし、「盗音機」と呼ばれる機械にそれを録音するつもりのこと。
「息、殺してろよ?」
「分かっておりますよ、お坊っちゃま」
俺と同じく小声で応対してくれた相沢。
賢い執事で、ホントに助かる。
『分かってるわね?
矢榛 椎菜。
自信を持つの。
貴方の優勝は決まっているのよ?』
『で……でも……』
『でも……じゃないわ。
私の有能な執事が、すでに準備を進めているから心配は無用よ。
必ず……北村動物病院が獣医師を決める……このコンテストに参加せざるを得ないように。
経営者の宝月 彩。
アイツを蹴落とすいいチャンスよ』
『で……でも……宝月家ってことは……
れ、麗眞にも迷惑かかるんじゃ……
お願い、それだけはやめて!
大好きな人に迷惑かけるなんて、それは出来ない!』
『安心なさいな。
貴方が協力してくれるなら……宝月彩の弟には迷惑はかけない。
私の執事が株価操作をして……病院に影響する会社の株を暴落させるわ。
被害を被るのは宝月 彩だけよ』
『はあ……わかりました……』
『よろしくね。
貴方が裏切った場合……許さないわよ?
貴女のママやパパ…叔母の首だって……いつでも飛ばせるんだからね?
城竜二財閥は。
それから、婚約できるくらい、学生時代からラブラブだったその、宝月 彩の弟。
ソイツへの唯一の秘密もバラすわよ。
ショックを受けるでしょうね。
本当に貴女のことを嫌いになるかもね?彼。
ふふ。
さ、分かったら早く戻ることね』
そんな会話だった。
その名を、大声で呼びたいのを必死に堪えながら椎菜と呼ばれた女の気配が過ぎ去ったのを確認した。
本当は、今すぐにでも名前を呼んで、抱きしめてやりたい。
学生時代から俺に秘密なんて作ったことのない椎菜。
お互いいい年齢だ。
いつまでも学生の時とは違うことは分かっている。
唯一の秘密とは何なのか、彼女を追って尋ねたい。
どんな秘密でも、俺は椎菜を嫌いになんて絶対にならない。
それだけは自信がある。
しかし、今、それをするべきではないのは、俺自身が一番わかっていた。
俺は城竜二 美崎に歩み寄った。
初めて生で見るな……
城竜二財閥の時期当主。
姉さんとほぼ同じ身長の女。
「ほ……宝月 麗眞!
「最後の言葉だけは聞いたぞ。
姉さんを陥れて何をするつもりだ?
あとは、俺の大事な椎菜に何かしたら俺はお前を一生許さないからな。
そうだ、これだけは言っておく。
姉さんは……まだ頑なに信じてるからな?
お前のこと。
昔みたいに……優しいお前に戻ってくれるって」
それだけ、告げてやった。
このことは、姉さんにはまだ言わないでおこう。