太陽と雪
矢吹さんを、俺と相沢の部屋に案内した。


「矢吹さん……さっき、俺……聞いちゃったんです。

城竜二 美崎が、矢榛 椎菜と話してるところに、たまたま通りかかって。

姉さんの動物病院に手を出す気だ。

おそらく……株価を暴落させて倒産寸前に追い込む」


「そう……でございますか……

私、恥ずかしながら……株やら経営やらに関しての知識は全くないのでございますが、大丈夫でしょうか」


そんな爆弾発言をする矢吹さん。

そんなんで……これから先も姉さんの執事務まるのかよ……。


「確か……姉さんの部屋に矢吹さんでも解るような経営の本、あったはずだけど?

たしか姉さん自身が執筆したやつ」


「それを読めば……よいのでございますね」


議題は、椎菜が、城竜二に言われた計画のなかで、どんな役割を果たすのか……ということ。


せっかくなので、さきほどの会話を密かに録音していた”盗音機”の音声を、矢吹さんにも聞いてもらうことにしよう。

「相沢。

お前は聞かなくていい。

俺の執事なんだから、頼んでくれればいつでも聞かせてやるよ」

「承知しておりますよ、坊っちゃま。

麗眞坊ちゃまは、本当に気が利くお方で。
貴方様の主でいられて、誇らしいです」


隣にいる相沢の返答を聞いてから、盗音機を再生した。


俺たちが注目したのは、何回か出てくる、興味を引くワードだ。

”女性限定”

”獣医師”

”コンテスト”

”優勝”


というワードだった。


「城竜二様は、椎菜様に”女性限定獣医師コンテスト”での優勝を必ずするように命じたようでございますね」


「そうみたい……だな。

姉さんの経営する獣医の優秀な男性スタッフを優勝させないように、とかいう魂胆だろ、多分」


「椎菜様は……獣医師としての腕はどうなのでございますか?」


「心配ないよ。

椎菜のお祖母さんが獣医だからな。

実力は相当なものだ。

椎菜自身も高校卒業して獣医学部で有名な大学に入学した。

試験もわざと難しくして、在学中も獣医師に向いていないと思ったら容赦なく退学させる厳しい校風のところだ。

そんな環境で、トップに近い成績で卒業したからな、椎菜は。

しっかり者でやるときはやる女だ、昔から。
優勝はまず間違いないな」


俺が自慢げにそう言ってやると、ふいに矢吹さんの顔つきが変わった。


「もしかして麗眞さま。

先ほどから彩お嬢さまとの姉弟ケンカに登場する椎菜さまこそ、こちらの機械から声を拾うことが出来る、取引を持ち掛けられている側の女性なのでございますね。

そして、その椎菜さまと距離は置いたものの、今でも麗眞さまご自身は、強く好意を寄せていらっしゃる……。
私はそうお見受けしました。

椎菜さまへの愛情が言葉の端々から伝わってまいります。」


おいおい、なぜバレたんだ。


< 48 / 267 >

この作品をシェア

pagetop