太陽と雪
バタンとドアを開く。
一斉に、目線が私に突き刺さってきた。
当たり前か。
遅刻したのだから。
「すみません。
遅くなりました……!
大変失礼しました」
深々と、頭を下げる。
さながら謝罪会見の様だ。
「まぁ、いいよ。
私も、連絡が遅くなってしまったからね。
私の責任でもあるから、気にしないでいいよ」
優しい院長の一言で、全世界の恥さらしにならずに済んだ。
院長には足を向けて寝られないな。
そうして、会議が始まった。
話し合った内容は、それぞれの動物病院の経営が上手くいっているか。
何年にも遡って、貸借対照表や損益計算表、さらには過去の監査資料を、細かく検証していった。
株主総会に向けて、準備しなければならないこともある。
なかなか上手くいっているようだ。
……このときは……気付かなかった。
……全てがワナだったことに。
玄関口を出ると、見慣れたフェラーリが停まっていた。
傍らには、執事の矢吹が直立不動をしている。
「そろそろ終わる頃だと思いまして。
車を彩お嬢様が今朝降りた場所まで回してきました」
まさか、ずっと待ってたの?
駐車場から玄関口まで、さほど距離はない。
時間がかかるわけではないけれど。
それでも、会議は3時間にも及んだのに。
矢吹の前任者である、藤原が執事のときはどうだっただろうか。
会議が終わったら、私が彼の携帯を鳴らして迎えに来てもらうシステムだった。
大体、人気のあるカフェで待つように言われていた。
そこで大好きなコナコーヒーを飲んで一服するのが、ささやかな楽しみだった。
執事を外で待たせたことなんてなかった。
人を待たせるのは昔から嫌いだ。
待たせる方に、「相手はきちんと来るのだろうか」などと気苦労をさせてしまうからである。
だったら、待ち合わせ時間の15分前に来て、人を待っていた方がよい。
人を待つのは好きだ。
自分との時間のためにどんな服装で来るのか、どんなところで時間を過ごそうか。
いろいろ想像が膨らむから。
待たせてしまったようで悪かったと逆に罪悪感を感じてしまった。
「彩お嬢様。
執事というものは、常にお嬢様のおそばにいるものなのです。
彩お嬢様にもしものことがあったら……と思うと、やりきれません。
何しろ、私の食い扶持がなくなります」
この執事、過保護なまでに私のことを心配するけど……
私だって……もう子供じゃないの。
自分の身のまわりのことくらい、自分で出来るし……自分の身だって、自分で守れるわよ。
だけど……矢吹は……ちょっと私が路肩の石につまずいて転んだだけでも助けてくれる。
ホント、真面目すぎるやつ。
でも、それは仕える主のためというのは建前で、結局は自分のためでもあるのね。
一言余計よ、矢吹。
私がそう言うと、矢吹はうやうやしく一礼してから言った。
「……彩お嬢様にそのようなことをおっしゃっていただけるとは。
ありがたく、そのお言葉はホメ言葉として頂戴させていただきます」
コイツってば、本物のバカね。
鈍感すぎるのかしら。
さりげなく、皮肉を混ぜた事にも気付かないなんて。
まさか……そんなことも分からないくらい、天然なの?
昔、私に仕えていた執事の藤原とは真逆のタイプの執事である。
戸惑う部分ももちろんある。
何せ私は、男性の経験値が圧倒的に少ない。
少なすぎる。
しかし、この執事と一緒にいて面白いことは確かだった。
一斉に、目線が私に突き刺さってきた。
当たり前か。
遅刻したのだから。
「すみません。
遅くなりました……!
大変失礼しました」
深々と、頭を下げる。
さながら謝罪会見の様だ。
「まぁ、いいよ。
私も、連絡が遅くなってしまったからね。
私の責任でもあるから、気にしないでいいよ」
優しい院長の一言で、全世界の恥さらしにならずに済んだ。
院長には足を向けて寝られないな。
そうして、会議が始まった。
話し合った内容は、それぞれの動物病院の経営が上手くいっているか。
何年にも遡って、貸借対照表や損益計算表、さらには過去の監査資料を、細かく検証していった。
株主総会に向けて、準備しなければならないこともある。
なかなか上手くいっているようだ。
……このときは……気付かなかった。
……全てがワナだったことに。
玄関口を出ると、見慣れたフェラーリが停まっていた。
傍らには、執事の矢吹が直立不動をしている。
「そろそろ終わる頃だと思いまして。
車を彩お嬢様が今朝降りた場所まで回してきました」
まさか、ずっと待ってたの?
駐車場から玄関口まで、さほど距離はない。
時間がかかるわけではないけれど。
それでも、会議は3時間にも及んだのに。
矢吹の前任者である、藤原が執事のときはどうだっただろうか。
会議が終わったら、私が彼の携帯を鳴らして迎えに来てもらうシステムだった。
大体、人気のあるカフェで待つように言われていた。
そこで大好きなコナコーヒーを飲んで一服するのが、ささやかな楽しみだった。
執事を外で待たせたことなんてなかった。
人を待たせるのは昔から嫌いだ。
待たせる方に、「相手はきちんと来るのだろうか」などと気苦労をさせてしまうからである。
だったら、待ち合わせ時間の15分前に来て、人を待っていた方がよい。
人を待つのは好きだ。
自分との時間のためにどんな服装で来るのか、どんなところで時間を過ごそうか。
いろいろ想像が膨らむから。
待たせてしまったようで悪かったと逆に罪悪感を感じてしまった。
「彩お嬢様。
執事というものは、常にお嬢様のおそばにいるものなのです。
彩お嬢様にもしものことがあったら……と思うと、やりきれません。
何しろ、私の食い扶持がなくなります」
この執事、過保護なまでに私のことを心配するけど……
私だって……もう子供じゃないの。
自分の身のまわりのことくらい、自分で出来るし……自分の身だって、自分で守れるわよ。
だけど……矢吹は……ちょっと私が路肩の石につまずいて転んだだけでも助けてくれる。
ホント、真面目すぎるやつ。
でも、それは仕える主のためというのは建前で、結局は自分のためでもあるのね。
一言余計よ、矢吹。
私がそう言うと、矢吹はうやうやしく一礼してから言った。
「……彩お嬢様にそのようなことをおっしゃっていただけるとは。
ありがたく、そのお言葉はホメ言葉として頂戴させていただきます」
コイツってば、本物のバカね。
鈍感すぎるのかしら。
さりげなく、皮肉を混ぜた事にも気付かないなんて。
まさか……そんなことも分からないくらい、天然なの?
昔、私に仕えていた執事の藤原とは真逆のタイプの執事である。
戸惑う部分ももちろんある。
何せ私は、男性の経験値が圧倒的に少ない。
少なすぎる。
しかし、この執事と一緒にいて面白いことは確かだった。