太陽と雪
ルームキーを差し込むドアの形状を一目見てから、パソコンを取り出して俺のルームキーの形状と一緒にデータをメールで送った。

数十分で、大丈夫なはず。

カギの偽造なら、親父の知り合いや相沢も、得意だ。

ルームキーを落としたというのが本当なら、フロントに届いている可能性も無きにしもあらずだ。

その可能性も、視野に入れなければ。

俺の優秀な執事なら大丈夫だろう。

「よし。
もうちょっとしたら、部屋入れるから待っててな?」

軽く椎菜の明るい茶髪を梳くように撫ででやると、今度は椎菜の方から俺を抱き締めた。

華奢な背中にそっと腕を回す。

少しでも力を込めたら折れそうだ。

か細い声で、俺の腕の中で、言葉を選びながら話す椎菜。

その言葉を、ゆっくり聞いてやる。


「ごめん……

ほんと、ごめんね。麗眞。

獣医になるための勉強、忙しくて、あんまり連絡取れなくなるのが、とってもとっても寂しかったから。

このまま、日本と海外で遠距離恋愛なんて無理だって思って。

寂しくなるくらいなら、距離置こうって、決意をしたの。

そこまで考えた経緯を、泣きながらあの日記帳に書いて。

ページを見られない仕掛けをしてあるから、面倒だけど1枚1枚、捲って読んでね?

あの日喧嘩が落ち着いてから言ったけど、ずっとずっと寂しかった。

ほんとは、ずっとずっと会いたかった。
今でも貴方が大好きよ、麗眞。

それでね、美崎さん。

っていうのは、さっき会ってた女の名前なんだけど。

その人に言われたの。

彩さんの経営する病院を破綻させる計画を手伝ってくれたら……

私の飼ってる、ガンで余命が短いワンちゃんの治療も……

心臓を悪くして入院しているおじいちゃんの高額な治療費用もどうにかしてやるって……言われた。

協力するしかなかったの……

そしたらワンちゃんも、おじいちゃんも助かって皆が平穏に暮らせるんだもん。

おじいちゃんなんて、ちょっと痴呆症入ってきてるから、これ以上酷くならないうちに、花嫁姿見せてあげたいし。

それに、お父さんやお母さんの首なんてすぐに飛ばせるって。

お父さんは、今はデザイナーとして独立してて仕事忙しいし。

お母さんだって、主演女優賞にノミネートされるくらい業界からも認められてるし。

仕事に誇りを持ってる両親の姿を見るのが好きなの。

だから、言われるがまま、乗っかるしかなかったんだよね。

でも、ホントは間違ってる!

こんなこと、しちゃだめだよ!

私、なんとかしたいんだけど、どうしたらいいのか、わからないの!

気をつけて、麗眞。

パソコン使って、株価操作して。

株を暴落させる気よ?

北村動物病院に関わる全ての企業の株を。

麗眞くんのお姉さんに、何か恨みがあるみたい」


やっぱりか。
姉さんに、間接的に危害を加える気だな。
そうはさせるか。
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