太陽と雪

買い物

いよいよだ。
脚が震える。


「お嬢様。
大丈夫でございますか?」

「大丈夫よ……!」


大丈夫には見えませんが。
そう言って笑ってくる。


貴方の前では、強がってもムダみたい。


「矢吹。
1回転の前……合図しなさいよ?」


「分かっております。

私が合図をしたら、首を背もたれに付けていただきますよう、お願いいたします。

首を痛めますので……」


「分かったわよ……」

私たちの番だ。
覚悟を決めた。


「さあ、参りましょうか、お嬢様」


「ええ……」


1回転は、想像より遥かにあっけなかった。


「ね……ねえ……矢吹?
1回転……したのよね?」


「ええ。
確かに致しましたよ」


そうだったかしら?


「だから言ったろ?
姉さん。

1回転なんて一瞬だって。

あんな半泣きになってたくせに、終わった途端これだもんな。

姉さんのリアクションのほうが面白いから、いいんだけど」


「ちょっと麗眞!
それ言わないでよ!」

「さすがは宝月家の次期当主。
度胸がおありで」


そう言って微笑んでくれた矢吹に、一番ホッとした。

なのに。


「おや、辿り着いてしまいましたね……」



例の垂直落下のところだと、私の第六感が告げていた。


「じ……上等じゃない!
行ってやるわよ」


矢吹から……さきほどと同じ言葉を貰いたい一心でだった。

人間、褒められれば嬉しいものね。

震える手を握りながらアトラクションに向かった。
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