太陽と雪
〈矢吹Side〉

カクテルパーティーに呼ばれたと言って、ロビーラウンジへと向かわれた彩お嬢様。

背中にファスナーの付いているワンピースといった無防備な格好で。


お嬢様……大丈夫だろうか。

普段、ワインや紅茶を好んでたしなまれる彩お嬢様。

カクテルは、ごくたまにたしなむ程度。

度数の強いものを選んで酔ってしまっていないか心配で仕方がない。


何となく胸騒ぎがした瞬間のこと。

麗眞さまからの着信が。

彩お嬢様だけでは心配だった。

麗眞さまもカクテルパーティーに招待されたという名目で参加してもらうように言付けをした。

行動を怪しまれないよう、相沢はスタッフの手伝いをしているということにしてある。


「麗眞さま?
どうなさいました?」


「大変だよ矢吹さん!
姉さんが……姉さんが倒れた!!」


彩お嬢様が倒れられたらしい。


「分かりました。

しかし……ただ酔っていらっしゃるだけということは?」


「それはない。
カクテル1杯、しかもグラス半分も呑んでないんだぞ?」

弟である麗眞さまの言うことであれば、間違いなはない。

酔っていらっしゃるのではない……

電話を続けながら、用意していたパソコンでハッキングを試みる。

すると、城竜二 美崎が自分の部屋に戻るところだった。

ついでに、彼女の部屋に仕掛けておいた盗音機のスイッチを遠隔操作で入れる。

すると……


「って……
え!?
アンタ……何してるのよ!

肝心の宝月 麗眞を眠らせないでどうするの!

そのために効き目の強いヤツを入れたのよ。

あのGHB入れるためにあの組織から在庫取り寄せるの大変だったんだから!

あ……宝月 彩を眠らせても意味ないでしょ?」

そんな音声が録音されていた。

ビンゴだ。


「麗眞さま。
ご心配なく。

彩お嬢様は薬で眠らされているだけのようでございます。

私もすぐに参ります」


「分かった、矢吹さん。

姉さんさ、今、城竜二家の使用人に囲まれてるんだよ。

奴らが手ぇ出すような素振り見せたら、俺が問答無用でぶん殴っとくから。

琥珀(こはく)ちゃんがこの場にいたら、こんな奴ら、相手にすらならなかっただろうけどな。

まぁでも、これくらいの人数なら俺でもどうにかなる。

それじゃあ、矢吹さん、後で合流しましょう」

電話は切られた。
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