太陽と雪
盗音機越しに、男の呻き声。

更に、城竜二 美崎のどうしたのよ!?
という声が聞こえる。

ロビーラウンジに着くと、麗眞さまに岳さま。それに、専属医師の高沢までいた。


城竜二 美崎の使用人達は全員、無様にも床に伸びていた。


「ま、これくらい、当然だろ」


慌てて駆け付けてきた相沢は、麗眞坊っちゃま、さすがです!

なんて言っている。


「彩お嬢様っ!?
彩お嬢様っ!」


身体を揺すっても、お目覚めになる気配はない。


抱き上げてみると、異変に気付いた。

ワンピースの背中のファスナーが全開に近い状態まで開けられ、さらにブラジャーのホックまで外されていた。


「お嬢様っ!?」


キスマークなどのものは見当たらず、それだけは安心した。


「矢吹さん。

彩さまが飲まされた睡眠薬…ガンマヒドロキシ酪酸というもので、通称、GHBと呼ばれます。
大変即効性が強いものでございます……」


宝月家専属医師の高沢が言うのだから、間違いないだろう。


「分かった。
ありがとう、助かるよ、高沢」


「ガンマヒドロキシ酪酸……

どこかで聞いた名前だ。

確か……おふくろも、昔飲まされたことがあるって……言っていたような気がする」

「奥様が?」


彩お嬢様の母親、(めい)さまだ。


「まあ……

とにかく……これが城竜二家の仕業であることは間違いない。

城竜二家は自分の家のイニシャル、Gの付くものを多用するからな」


「そうですね……
分かりました。
麗眞さま、岳さま、高沢。
ご協力、感謝いたします」


「矢吹さん。

お礼なんかいいんだよ。

カクテルパーティーの物資運ぶのを手伝うところだったんだ。

そうしたら、たまたま彩さまが椅子にとり付くようにして倒れるの、目撃しただけだから。

俺は、相手に気付かれないように、テーブルの下に隠れていただけ」


私は、彩お嬢様をそっと抱き上げて、自分の部屋に戻った。


「彩お嬢様。
申し訳ございません……
私の不手際で……」
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