太陽と雪
だが、美崎さまも、その執事も、ずいぶん用心深い性格なのだろうか。
リラックスしている会話は聞けそうになかった。
可能性としてはもう1つある。
美崎さまと彼女の執事がまだ打ち解けていないという、僅かな可能性。
それに賭けよう。
とにかく……収穫はナシ、と。
諦めて、盗音機の電源を切ろうとした、ときだった。
ザザ、という耳障りな機械音の後に、ある会話が聞こえてきた。
「美崎さま。
その……本当にいいのでございましょうか。
彩お嬢様……いえ、宝月 彩さまにそのようなことをなさって……
彩お……彩さまは、かつてのご学友なのでございましょう?
今でも大切なお方なのは確かなのですよね」
「そうよ。
だからなんだというの?
藤原 拓未。
貴方に止められる筋合いはないわ」
「しかし……彩さまには何の罪もないのでございますよ?」
「知ってるわよ。
だけど……あの高飛車な性格。
見ていてイライラするの」
「美崎さまも、負けず劣らず高飛車でございますよ?
彩さまは……ツンデレではあります。
それは言葉の選び方が下手なだけで、本当は素直な優しい方でいらっしゃいます」
「何よ。
拓未は私より、彩の味方なのね、
そう聞こえるわ」
「いいえ。
とんでもございません。
彩さまを例に、人間のいい面も見たほうがよろしいということ。
人間なら誰にでも欠点はあるということを、お伝えしただけでございます」
「……あら、そう。
……まあ……いいわ」
「拓未。
家に連絡。
お母様が何を考えているのか……気になるわ。
私は私で、宝月 彩をハメる計画があるのに」
「かしこまりました。
ただいま」
「母は手厳しいわ。
だけど貴方なら、大丈夫よ。
交渉、上手だもの。
この私でさえ、上手く口車に乗せられたし。
執事の前は何をしていたの?」
「他家のお嬢様の執事をしておりました。
そこでいろいろ……学んだのでございますよ」
ここで、美崎さまと彼女の執事の会話は終わっていた。
私は、美崎さまとの会話の内容より、
美崎さまの執事が誰なのか、ということが気になっていた。
音声を聞いているときに引っかかった違和感。
執事は、普通、自分のことを下の名前では呼ばせない。
それに、彩お嬢様の名前を、フルネームで呼ぶことに慣れていないような、そんな感じを受けた。
まるで、"彩お嬢様"と呼ぶことが習慣となっていたかのような。
このとき、私が、執事のことまで、徹底的に調べていれば。
執事は常に先を読んで行動することが大切だ。
それは執事として採用された直後まで遡る。
執事見習いとして宝月家にいるベテラン執事にトレーニングを受けたときに毎日のように教わった。
それなのに。
これが出来ていなかったことで、一番大切なお嬢様をまた泣かせてしまうなんて。
このときは、予想もできなかった。
リラックスしている会話は聞けそうになかった。
可能性としてはもう1つある。
美崎さまと彼女の執事がまだ打ち解けていないという、僅かな可能性。
それに賭けよう。
とにかく……収穫はナシ、と。
諦めて、盗音機の電源を切ろうとした、ときだった。
ザザ、という耳障りな機械音の後に、ある会話が聞こえてきた。
「美崎さま。
その……本当にいいのでございましょうか。
彩お嬢様……いえ、宝月 彩さまにそのようなことをなさって……
彩お……彩さまは、かつてのご学友なのでございましょう?
今でも大切なお方なのは確かなのですよね」
「そうよ。
だからなんだというの?
藤原 拓未。
貴方に止められる筋合いはないわ」
「しかし……彩さまには何の罪もないのでございますよ?」
「知ってるわよ。
だけど……あの高飛車な性格。
見ていてイライラするの」
「美崎さまも、負けず劣らず高飛車でございますよ?
彩さまは……ツンデレではあります。
それは言葉の選び方が下手なだけで、本当は素直な優しい方でいらっしゃいます」
「何よ。
拓未は私より、彩の味方なのね、
そう聞こえるわ」
「いいえ。
とんでもございません。
彩さまを例に、人間のいい面も見たほうがよろしいということ。
人間なら誰にでも欠点はあるということを、お伝えしただけでございます」
「……あら、そう。
……まあ……いいわ」
「拓未。
家に連絡。
お母様が何を考えているのか……気になるわ。
私は私で、宝月 彩をハメる計画があるのに」
「かしこまりました。
ただいま」
「母は手厳しいわ。
だけど貴方なら、大丈夫よ。
交渉、上手だもの。
この私でさえ、上手く口車に乗せられたし。
執事の前は何をしていたの?」
「他家のお嬢様の執事をしておりました。
そこでいろいろ……学んだのでございますよ」
ここで、美崎さまと彼女の執事の会話は終わっていた。
私は、美崎さまとの会話の内容より、
美崎さまの執事が誰なのか、ということが気になっていた。
音声を聞いているときに引っかかった違和感。
執事は、普通、自分のことを下の名前では呼ばせない。
それに、彩お嬢様の名前を、フルネームで呼ぶことに慣れていないような、そんな感じを受けた。
まるで、"彩お嬢様"と呼ぶことが習慣となっていたかのような。
このとき、私が、執事のことまで、徹底的に調べていれば。
執事は常に先を読んで行動することが大切だ。
それは執事として採用された直後まで遡る。
執事見習いとして宝月家にいるベテラン執事にトレーニングを受けたときに毎日のように教わった。
それなのに。
これが出来ていなかったことで、一番大切なお嬢様をまた泣かせてしまうなんて。
このときは、予想もできなかった。