太陽と雪
「お嬢様……」

いつもの通り、5時30分ピッタリに目覚めてしまった私は、お嬢様の頭を撫でて差し上げていた。

間違っても執事の私がお嬢様に手を出さないように、理性を抑える目的もあったの。

逆効果だったようだ。


お嬢様のサラサラの茶髪はどうして、こうも掻き立てられるような感触なのだろう。

私の大切なお嬢様を、誰にも渡したくない。

命に代えても守って、出来れば、一生私だけが独占していたい。

可愛らしい笑顔も、愛らしい泣き顔も、全て。

高沢に頼んでいたアイスノンがかなり生ぬるくなっていた。

取って差し上げたようと、お嬢様の顔に手を伸ばす。

頬に手が当たってしまい、起こしてしまったかと心配になった。


上から、そっと、彩お嬢様の目を覗き込んでみる。


目は腫れていないようだ。

お嬢様を泣き腫らした目のままで過ごさせるわけにはいかない。

せっかくの可愛らしいお顔が台無しになってしまう。

執事としてあるまじきことだ。


「いかがでございますか?
彩お嬢様の様子は」


高沢からのメールだ。


心配無用です。
とだけ返信した私は、室内にある風呂の用意をした。


でも……今日が最後の滞在だ。


我が主はお風呂でリラックスするのが好きだ。

大浴場に入ってゆっくりしたいはずだ。

だが、あんなことがあったのだから、1人で行動させるのは危険だ。

私は、彩お嬢様を起こさないよう、パソコンでのハッキングを試みた。


このホテルに……偶然でも、彩お嬢様の知り合いがいればいい。

そこまで思って、1つだけ、当てがあった。

麗眞さまの想い人、椎菜さまだ。

彼女は、何度も宝月の屋敷に遊びに来たことがあるという。

麗眞さまから伺ったことがある。

椎菜さまが急遽屋敷に泊まることになった際は、我が主の彩お嬢様が可愛いルームウェア等を貸して差し上げたエピソード。


……彼女なら。
彩お嬢さまも、安心されるに違いない。

そうと決まれば、行動は迅速だ。


私は、まだ起きているかも分からない、ある方に電話を掛けた。
< 82 / 267 >

この作品をシェア

pagetop