太陽と雪
「もしもし?

麗眞さま?

早朝から失礼致します。

起きていらっしゃいますか?」


電話の相手、麗眞さまは、この電話によって起きたようだ。

無理矢理叩き起こされた子供のような声で返事をした。


しかし。


「申し訳ございません、麗眞さま。
椎菜さまに連絡を取っていただきたいのです」


『椎菜がどうしたって!?』

さっきまでの眠そうな声とは180度違う、いつもの麗眞さまの声に戻った。

アルトパートで活躍できそうな声。


「昨日のことで、お嬢様は入浴を済まされておりません。

今日がこのホテルでの滞在は最後となりますので大浴場にてごゆっくりおくつろぎいただきたいのですよ」


『なるほど……
1人じゃ心配だから、椎菜に一緒にいてほしいってことか』


さすがは旦那さまの息子。

一を聞いて十を知ることの出来る頭の良さは旦那さま譲りだ。

私はまだ、"心配"の"し"の字も言っていない。


『オッケー。
椎菜の方も姉さんなら安心なはずだ。

いろいろ腹割って話せるだろう。

じゃあ……俺は椎菜に連絡してみるから』


「了解致しました。

私も、彩お嬢様がお目覚めになり次第、またご連絡いたします」


『分かった』


麗眞さまの了解の返事を聞いてから、ゆっくりと電話を切った。

これで、彩お嬢様が万が一にも美崎さまと遭遇しても、危害は加えられないだろう。


美崎さまの取り引き相手、椎菜さまが一緒にいる状況なのだ。


万が一、手を出してきたとしてもだ。

椎菜さまが取り引き内容を全て、彩お嬢様にバラすと言うだろう。

美崎さまのほうも下手に手出しはしないはずだ。

そうこうしているうちに、時計の針は朝の6時を指し示していた。


さて、レストランのシェフとの食事のメニューについて打ち合わせにでも行くか……
と思っていた矢先。


「ん……んっ……?

あ…あれ?

矢吹?」


「はい。
私でございますよ。
お目覚めのようですね。

おはようございます、彩お嬢様」


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