太陽と雪
「……おはよ。
矢吹」


いつもの気取った口調で、朝の挨拶をしてくる彩お嬢様。


「いかがでございますか?

彩お嬢様。

ご気分のほうは」


「え?
ああ……いつも通りよ、矢吹」


「それはようございました」


彩お嬢様に笑顔を向けて、その可愛い顔を上から覗き込む。


「な……何なのよ……矢吹。
朝から人の顔をジロジロ見て!」


「目、でございますよ。

昨日は散々泣いていらっしゃいましたので。

腫れてはいないかと心配でございました」


「……ありがとう。

コレ、そのためだったのね」


近くにあったアイスノンを手に持ちながら言う彩お嬢様。


「さようでございますよ。

さあ、本日が最後の滞在となります。

ゆっくりおフロにでも浸かってきてはいかがですか?」


「そうだ。
昨日……結局おフロ入ってないんだっけ……」


彩お嬢様は、自分でも、昨日入浴をされていないことを覚えていないご様子だった。


「廊下に、ある方がいらっしゃいます。
その方と一緒にどうぞ」


私がそう言った後、自分の携帯がポケットの中で震動するのを感じた。


『もう、椎菜が廊下にいるから』


という麗眞さまからのメールだった。


『彩お嬢様が今から行かれるそうです』


とだけ送った。


「じ……じゃあ……行ってくるから」


「ごゆっくり、お楽しみ下さい。
では…行ってらっしゃいませ」


彩お嬢様を見送った私は、その後すぐにかかってきた麗眞さまからの電話に応答した。


『もしもし?矢吹さん?

姉さんと椎菜の組み合わせはいいけどさ……ちょっと心配なんだよ。

美崎との取り引きのこと……言っちゃいそうで怖いな」


「大丈夫でございましょう。

信じて待つことも……大切でございますよ」

そう言って、電話を切った。


椎菜さまは、麗眞さまの言うとおりならとても優しい心の持ち主でなおかつ、良識のあるお方だ。

取引の話をすれば、彩お嬢様を悲しませることはわかっているはず。

椎菜さまが相手を悲しませることなど、するはずがないでございますよ。
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