太陽と雪
会話は最低限で、静寂の中、着々と着付けの作業は進んでいく。

たまに聞いてくれるのよね。

苦しくはないかどうか。


そういう、たまに優しいとこも……好きだったりするのよね。

もちろん、執事としてよ?

「あの……矢吹、よく私なんかの執事になってくれたわよね。

皆からよくツンデレって言われる通り、性格に多少難アリじゃない?

そんな私の執事で……良かったの?」


「今更……何を仰っているのでございますか?

10年近くも一緒にいらっしゃれば、慣れてくるのでございます。

彩お嬢様のワガママも、お嬢様らしい物言いで
聞いていて飽きないですし。

可愛らしいですよ、彩お嬢様は」


「……ありがとう。

矢吹が初めてよ。

私の性格を褒めてくれたの」


「さようでございますか。

私、褒めるのは少し苦手でございますゆえ……
わかりづらくて申し訳ございません」


「私は、遠回しに毒舌を言われるのも好きじゃないし、婉曲した褒められ方をされるのはもっと嫌いなの!」


「失礼いたしました。

さて、彩お嬢様。

着付けは完了いたしました。

鏡でご覧くださいませ。
お嬢様、いかがでございますか?」


矢吹の言葉に、おそるおそる自分自身の姿を鏡に映してみる。


黒地にピンクと薄い紫の花柄の浴衣。


帯も、その2色のグラデーション。


「お嬢様、苦しくはございませんか?

失礼ながら、お嬢様のスタイルの良さを強調するため、浴衣の帯をキツめに結ばせていただきました」


確かに、腰のクビレがより強調されている感じがした。


「ふふ。

上出来よ?

ありがとう。

着物、苦手意識があったけど、少しだけ好きになれた気がするわ」


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