太陽と雪
「覚えておりませんか?
彩お嬢様」


そう言われて、ふと頭に浮かんだのは、あのやりとりだった。


あの、化粧品やら香水やらバスグッズやらが並んでいた店で、矢吹が1品だけ、自分に選ばせてほしいって私に頼んだんだっけ。


「まさか……貴方があの店で選んだのがこの香水なのね?」


「さすがは彩お嬢様。
奥様に似て、カンがよろしゅうございます」


「でしょ?

って……

珍しく直接的に褒めたわね…」


「香水というものは、永久に香りが続くものではございません。

出掛ける30分ほど前に付けるのがレディーのたしなみでございますゆえ」


「そ……そうなの?」


香水なんて普段、全然付けないから知らなかったわ。

「待って矢吹。

貴方があの店でセレクトしたものって……
全て、この浴衣に似合うものを選んでいたの?
届いたのを見たとき、地味な色味の化粧品しかなかったもの」


「確かに彩お嬢様の仰る通りでございますが……

地味な色味の化粧品という言い方はいかがなものかと」


「何でよ!

地味な色じゃない!

いつも使ってるピンクとかオレンジ系統のものに比べれば、地味よ!」


「姉さん。

矢吹さんが言いたいのは、浴衣が華やかで似合い過ぎてるから、化粧なんか控えめで十分だって。

そういうことを言いたいんじゃないの?」


「麗眞さま!
ただいまお呼び出しに伺うつもりでございましたのに。
来させてしまい、申し訳ございません」


「いいの。

部屋で相沢と2人もいいけど、浴衣なんて着てる今、また姉さんに昨日みたいなことがあっちゃいけないしな。

しかも今日はなぜか、相沢が席を外す時間多かったけど」


麗眞に心配されなくても自分の身くらい自分で守れるのだけれど……

今は素直に、彼の言葉に甘えておこうと思った。
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