太陽と雪
そう言う矢吹に付いて行ってみる。

トコトコ、トコトコ。

下駄という履物は歩きにくいせいか、歩幅も狭くて、ついていくのがやっと。

だけど……


「痛っ……」


階段を矢吹に置いていかれないように急いで登っていたら、足ひねったみたい……


足を押さえながら階段下でうずくまる私を見て、状況を理解したであろう矢吹。

「大丈夫でございますか、彩お嬢様。

その様子では、歩くのは控えたほうがよろしいですね。

少しだけ、ご辛抱くださいませ、彩お嬢様」


矢吹はそう言って、私をあろうことか背中におぶった。

案の定、周りの人からの好奇の目線が痛い。


「矢吹!

少しは、場所を考えることね。

こんな公共の場所で……何してるのよ!」


「失礼致しました。

しかし、足をひねっておりましたゆえ、下手に歩かせるのも危険だと判断致しました。

さぁ、到着致しましたよ、彩お嬢様」


矢吹に優しく降ろされた。
もう、先ほどまでの足の痛みはない。


「姉さん、平気?

さっきの階段下での出来事、バッチリ見てたけどさ。

足ひねっただけ?

他にケガはないんだよね?」


麗眞の声が。
両親に似て、過保護なんだから。

「彩さん、本当に大丈夫ですか?

ベンチに近い場所に移動しますか?」

「お気遣いありがとう。
でも、大丈夫よ」

白地に淡いピンクの花柄浴衣が似合う椎菜ちゃんまで心配してくれた。

椎菜ちゃん、昔も今も変わらず、可愛らしい格好が似合う子ね。

昔から周囲によく気が回るのは、彼女の数ある長所の1つだ。

高台からは、海が一望でき、近くには、さっきまでいたテーマパークもあった。

「ありがとう。
久々に、楽しかったわ」

なんて言った瞬間に、音と共に夜空に咲く大輪の花火。
全部で2万5000発上がった。

私は、スターマインとかいう花火が一番好きだったかな。


「やっぱ、さすがだな。
この夏祭りの花火、県内最大らしいぜ?

音楽花火も良かったな」


「このメンバーでまた行きたいな……花火」


「海とか……いいかもしれませんね。
お嬢様は海がお好きでございますから」


「機会があれば……ね?」


花火を見終わって、ヘリに向かう途中でもそんな会話をしていた。

椎菜ちゃんは、ちゃんと家まで一番先に送ってあげた。

麗眞いわく、俺の目が届くうちに、理性が保つうちに家に帰してやりたいとのこと。

全く、どんだけ溺愛してるのよ!

早くヨリ戻したらいいのに、何をのんびりしているんだか。

もっと……彼女に聞きたいこともたくさんたくさん、あったんだけどな……

まぁ……いいか。
いつか、聞けばいい。


< 98 / 267 >

この作品をシェア

pagetop