太陽と雪
椎菜ちゃんを無事に家に送り届けた後。


「彩さま、麗眞坊っちゃま。

お二人とも、いつまで着物でいるつもりなのでございますか?」

そうね。


椎菜ちゃんと一緒に上空から横浜の夜景を観たしそろそろ着替えたいわ。


でも……こんな服だから、着替え方さえも分からない。


「彩お嬢様。

そろそろお召し替えを致しましょうか。

では、麗眞さま、失礼致します」


矢吹がそう言ってから一礼すると、コックピットの扉の向こうにある、リクライニングルームへ。

簡易ベットが2つ設置されている場所。
ここでよくパパとかが移動中に着替えたりするのよね。


「お嬢様。

それでは、こちらの浴衣、帯を解かせていただきますゆえ、じっとしていてくださいませね?」


「分かってるわよ……
2人でいるだけで恥ずかしいんだから、早くしなさいな」


「可愛らしいですね。

彩お嬢様は。

そのようなギャップが、また可愛いのでございますが」


そう言いながらも、慣れた手付きで帯をほどいていく。


「これで完了でございます。

と言いたいところでございますが、念のため。

お嬢様……失礼ですが、下駄を脱いでいただけますか?」


「下駄……って?」


「今お嬢様が履いていらっしゃるものが下駄でございます」


「そうなの!?」


「先ほど、足をひねっておられましたので」


そう言って、下駄を脱いだ私のつま先に視線をやる。

「問題はないようでございますね。

私、安心致しました。

私は外でお待ちしておりますゆえ、お召し替えが終わりましたら呼んでくださいませ」


矢吹の言葉に素直に頷いて、早く着替える。

つい最近、通販で買ったばっかりの白いワンピース。

ノースリーブで、身頃に裏地がついているので肌が透ける心配もない。

ミニ丈ではあるが、スカート部分にほんの少し、チュールが使われている。

それを着てから、キャメルのブーサンを履いて、着替えが終わったことを矢吹に告げた。


「彩お嬢様。

私の予想通りでございました。

そちらをお召しになることまでは予想できませんでしたが、白いワンピースを着用なさるだろうという私の予想は当たっておりました」


矢吹はそう言いながら、赤い花クリップを取って、てっぺんに黒いリボンの付いたカチューシャを付けた。


「麗眞さまと相沢のもとに戻りましょう。
彼らが着替える時間がなくなってしまいます」
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