バイバイハニー
バイバイ。だけど、よろしくね
その日は、とても暑かった。
だから最初は、
その所為で見た、幻覚だと思った。
何故なら、目の前で微笑む恋人が、
どういう訳か、男にしか見えなかったから。
蜂蜜色はそのままに、
風に靡く、長かった髪は、
耳を覆う程度まで短くなっていて、
俺によりかかると、
肩に頭を乗せる程度だった背丈は、
今じゃ逆に、俺がもたれられる位に。
心なしか、肩幅でも負けている。
俺よりも少々ガタイのいい男は、
けれど俺の愛する恋人の顔をしていた。
「えっと……一紗、の……
お兄さん、とかですか?」
俺の恋人の名前は一紗(かずさ)
名前に1が入っているように、
彼女は長女だったように記憶しているけど。
「違うよきい君、一紗だよ」
きい君と、それは彼女だけが使う俺のあだ名。
その発音も、声の甘さもすべて、
昨日までのままだ。