十三日間
「ずいぶん早く集まっちゃったね。どっちの映画がいいか、チケット売り場、見に行こう」
僕は、何事もなかったかのように大木を誘い、売り場まで行く。

同時に公開になったのに、片方はまだまばらに人が並ぶか並ばないかなのに、もう片方はかなりの列が出来ている。

「これって、並んでる方が面白いってことかな?」
僕がぼそっと言うと、
「そっち観たい?」
と大木が聞いてきた。
正直、僕は映画はどうでもいいので、空いてる方がいいかなと思っていた。
「僕は、どっちでもいいんだ。どうする?」
あ、しまった。
ここでかっこよく、僕が決める予定だったのに、ついつい…。
「あたしも、ホントにどっちも観たいの。じゃ、すいてる方にしない?」
「うん、いいよ」
こうして、結局大木みくるに決めてもらい、観る映画が決まってしまった…。

うう、最初からダメじゃん~僕~!

さっさとチケットを買いに行こうとする大木みくるを、僕は慌てて引き留めた。
「今日は、映画は僕のおごりだって言ったでしょ? 本気だからね」
ちょっと強い口調で言ってみる。
男らしさをアピール?

大木みくるはびっくりしたようだったが、小首をかしげるようにして
「ほんとにいいの?」
と聞いてきた。

か、可愛いなぁ~…。

って、見とれてる場合じゃないから。
「うん。待ってて、チケット買ってくる」
僕は男らしくそう言うと、チケットを買う列に並んだ。
列は結構混んでいて、僕は一緒に並べば良かったとちょっと後悔してた。

ようやくチケットを買って、大木みくると別れたところに戻ろうとしたら、映画館に入る列の方から、
「水瀬くん!」
と声がかかった。
「待ってる間に並んでおこうと思って」
見ると、大木みくるの後ろにも、結構長い列ができはじめている。

「ありがとう、気が利くね」
僕は、思わず素直に感想を言ってしまった。
「え…、そ、そんなことないけどね。チケット、ありがとう」
ちょっと照れたように大木みくるが言う。

う~ん、そんな様子も可愛いじゃないですか!

僕は見つからないようにニヤニヤしながら、映画館が開くのを待っていた。
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