十三日間
帰りが遅くなることは、途中で母さんに電話で言ってあった。
昨日の今日で、帰りが遅かったら心配するに違いない、と思ったからだ。
「ただいま~」
玄関を開けると、父さんの靴が玄関にある。
いつも帰りが遅く、出かけるのも一番早い父さんの靴を見かけるなんて、なんだか久しぶりだ。
「母さん、父さん帰ってるの? めずらしいね」
そう言いながら居間に行くと、ちょうど着替えが終わったらしい父さんが居間に入ってきたところだった。
「おう、お帰り、伶」
父さんはそう言うと、僕の顔をじっと見る。
「な、なに?」
ちょっとびっくり。
「いや、もう顔色は悪くないみたいだな」
あ、父さんも聞いてたのか…。
そりゃそうだよね、母さんが言ってるか。
「うん、もう全然大丈夫だよ。昨日のはたまたま、だってば。みんな心配性だなあ」
僕はことさら明るく笑ってみせる。
つられて父さんも笑顔になりながら、でも口調だけは真剣にこう言った。

「伶、何かあるのなら、ちゃんと隠さずに話すんだぞ。父さんは帰りも遅いし、朝も早いし、休日だって家にいることもあまりない。でも、おまえたちの方が仕事なんかより何倍も大事だ。父さんの力が必要な時は、必ず言うんだぞ。出来ることは、何でもするからな」
一気にそう言うと、父さんはちょっと照れくさそうに笑って、ソファーに腰掛けた。

僕は、柄にもなく感動で涙がにじんできていた。

いっつも家にあまりいない父さん。
僕らのことなどあまり気にしてないと思っていたのに…。

仕事、今日だって忙しいんだろうに、僕の事を気遣って早く帰ってきてくれたんだ。

そう思ったら、本当に嬉しくなって来た。
< 186 / 267 >

この作品をシェア

pagetop