十三日間
シャワーを浴びて出てくると、父さんはもう会社に行ったみたいだった。
そうだよね、あの時間じゃ、遅刻寸前だった筈。
ありがとう、父さん……。


僕が真面目にそんな事を考えてると、頭をぽんと小突かれた。
「大丈夫か、伶?」
兄さんだ。

「…うん。もう、大丈夫だよ。あの夢で、全部終わったんだ。今日は、僕はもう夢は見ないよ」

「…そっか。ならいいんだ。……ごめんな、伶」



いきなり謝られて僕は首をかしげる。

「うなされたらすぐ起こしてやる、なんて言ったのに……」
兄さん、落ち込んでるみたいだ。
「でも、おまえ、うなされてはいなかったんだ。ぐっすり寝てた。それが、いきなり、叫びだしたんだ…。言い訳っぽくて悪いけど、、俺、熟睡とかしてないから、間違いないぜ」
兄さんがそう言うなら、間違いないだろう。

てことは、僕は最後の瞬間までは苦しんでいなかったんだな…。

僕は、夢を思い出して、ちょっと眉をひそめる。

最後の瞬間は覚えてなくて幸いだ。

死ぬ瞬間の事なんて、覚えてたくなんか、ないもんね。

「うん、判ったよ、ありがとう、兄さん」

僕は本当に気にしてなかった。

もう、終わったことだしね。



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