夜明け
それから五ヶ月くらい経ったある日、慶太の浮気が発覚した。
加奈はもう大学に行かなくなっていたし、慶太の大学でも行動が自由になった。
容姿の良い慶太のことだ、何もしなくても女が寄ってくるのは目に見えていたことだった。
それはたまたま加奈が慶太の家に慶太には内緒で訪れた時のことだった。
ほんの気まぐれで行動したことがこんなことにつながるとはだれもが思うまいと加奈は思っている。
慶太にサプライズで料理を作ってあげようと考え、材料を買い込んで慶太の家に行った。
慶太は授業で家にいないことは分かっていたので、合鍵で中に入り、料理の支度をした。
買ってきた食材を冷蔵庫に入れようと思い、ドアを開けた時だった。
加奈の目に入ってきたのは「中華の素」だった。
加奈は咄嗟にドアを閉めた。へんな汗が背中を伝い、そこにまるで誰かが要るのではないか、急に他人の家に来たのではないかという感覚に襲われた。
慶太は料理をしない。大学に入ってからも全て加奈が作っていた。
そして加奈は和食と洋食を中心に作り、中華は得意ではなった。
加奈の頭にはすぐに「浮気」の文字が浮かんだ。
もしかしたら、慶太が料理を始めたのかもしれないし、家に人を招いて何か、パーティーのようなことをしたときに残ったものかもしれなかったが、
こんな時の女の感は当たるものだと、最近読んだ雑誌に書いてあったのも同時に思いだした。
その日は慶太に会う気にはなれず、料理だけ作って置手紙をして帰った。
その晩、慶太から電話があり、いつもと変わらない声にホッとしたのを覚えている。
しかし、その数日後慶太の家に行ったとき、「中華の素」は消えていた。
本当に偶然見てはいけないものを見たという感覚に襲われた。
あれは見てはいけないもので、慶太は私が来たときにそれを隠した。
それは本当に偶然に置いてあったのだろうか。
加奈は今になってそれは相手からの挑発だったのじゃないのかと感じる。