夜明け


何故なら、慶太の会社では最近なぜか‘会議’が多く、それに伴い、帰りも遅くなるからだ。

今日は遅くなるから先に寝てても良いよ、今日は会議で遅くなりそうなんだ、だから夕飯はどこかで適当に食べてくる、今日は重要な会議で、日付が変わるまでに帰れるかわからない、もし終電を逃したら近くのホテルに泊まるかも。

馬鹿な男だと加奈は思った。これで気づかない女はいるのだろうか、100人にアンケートを取ったら99人は浮気を疑うのではないだろうか。

なぜ毎回会議なのか、なぜ毎回会議の日は遅くなるのか、なぜ毎回会議の日は気合を入れて会社に行くのか、なぜ会議の次の日は、いつもより優しく私に接してくるのか。

加奈はそれを慶太に強く言えないでいた。それは惚れた弱みなんだと加奈は思う。

慶太は30歳を過ぎたあたりから、衰えを見せるどころかますます色っぽくなった。それは妻の加奈から見ても明らかにわかるほどに、慶太は‘良い男’に成長してしまった。

隣の奥さんも、子供たちのコミュニティーでできたママ友も、子供たちの先生も、スーパーのレジのおばさんも、挨拶を交わした女性であればだれもが頬を染めるほどに、慶太はその色香を増していったのだ。

そんな男をほっとく女なんていない。隣に誰もいないなら、近寄って話してみたいと思うのは普通ではないだろうか。

そして、あわよくば自分のものにしたいと思うのは普通のことなのではないだろうか。

加奈は、ふと、思うのだった。


もしかしたら、30歳から色香を増しだしたのは、その頃からすでに浮気をしているからじゃないか、と。



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