夜明け
それに比べて自分はと思うと、加奈の心は益々濁る。
高校時代は、どちらかというとかわいいという部類に属し、満足ではなかったが決して不満のある容姿ではなかった。
大学時代でも、慶太がいるにもかかわらず、ほかの男から告白されることもあった。別にそれを鼻にかけるわけでもないが、ふさわしいとまではいかないまでも慶太の横に立っていられたのも事実だ。
しかし、子供ができてからというもの、自分の趣味やおしゃれには以前のように時間もお金もかけられなくなってしまった。
毎日家の中で過ごしてる加奈にとって、慶太に話すことといえば、子供たちが話してくれた子供たちの一日についてや、ママ友が教えてくれた近所の噂話、テレビのワイドショーの特集でやっていた耳寄りな情報、それは毎日少しずつ違うだけで、大した変りなどないものばかりだった。
そんな話より、もっと広い世の中で見たこと、体験したこと、それを踏まえて考え、経験として身に着けていく女性が話すことはもっと魅力的に決まっている。
それを毎日聞くとしたら、どう考えても後者が良いと、加奈もわかっている。わかっているのにどうしようもない。
前よりしわが増えた気がする、前よりお腹周りに肉がついてきた気がする、前より自分の動きが重くなってきた気がする、前より独り言が多い気がする、何より、前より前よりと、昔の自分と比べていることが多い気がする。
毎日、働き詰の慶太にとってどっちが癒しかなんて、どっちが刺激的かなんて、聞かないでもわかっているのだ。
ただ、認めたくない。
それは、浮気をではなく、そういった境遇に陥ってしまった自分を、加奈は認めたくはなかった。