囚われジョーカー【完】
家に行けば、後には戻れないこともどこかで分かっていたつもりだ。
それでも私は、再び無言でシートに腰掛け直した。
滑らかに車が発進する。私の住むアパートがどんどん小さくなるのをバックミラーで見ていた。
「…君は、優しいね。」
「……。」
「だから、俺みたいな男に騙されるんだよ。」
それならそれで、いいと思った。私は三浦さんの纏う空気にのまれてしまったんだ。
あの時に名前を聞いておけば良かった。
三浦さんの気持ちを聞いておけば良かった。
あの日の自分が、恨めしい。
お互いに出逢ってしまったことが、私にとっても三浦さんにとってもの失敗。
追憶の欠片を、私はいつまで持っていればいい?