囚われジョーカー【完】
だからだろうか、そんな彼の雰囲気にのまれて声をかけられるまで彼女が清水くんの後ろにいたことに気が付かなかった。
「ハロー、菫ちゃん!」
「え……、ッあ…!」
閑静な住宅街に、彼女の甲高い女らしい声は良く通った。
私は、数回瞬きを繰り返してびっくりしながらも彼女の名前を声に乗せた。
「明日香さん!」
「YES!」
ふふっと綺麗に口角を持ち上げる仕草とは対照的に、私の肩へと腕を回す所はやはり(元)バイト先の先輩、明日香さん。
相変わらず大人の女という雰囲気の中に無邪気さを持った綺麗な人だ。
「どうしたんですか?」
「んー?私この近くのマンションに引っ越したから、荷物運びとかを清水ちゃんに手伝ってもらってたの!」