接吻ーkissー
「オレンジジュースでいいかな?」

「お願いします」

なれた手つきでお兄さんはコップにオレンジジュースを注いだ。

私の前にオレンジジュースが置かれる。

「ありがとうございます」

「いいえ」

お兄さんは笑って返事をすると、コップを磨き始めた。

「菊地さん、ああ見えてもピアノの腕だけはすごいんだよね。

さっさと世界へ行ってしまえばいいのにって言う話だよ。

こんな小さなバーで雇われているよりもね」

そう言った後、お兄さんは困ったように笑った。

彼もまた、菊地さんのピアノに魅せられた1人なんだろう。
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