シンデレラルーム 702号室
「何やってるんだ?」


「……え?」



我に返ったようにはっとして俺を見上げた彼女は、一瞬目を見開いて固まった。


そりゃ恐かっただろう。


あの頃の俺はヤクザの風采(ふうさい)を捨て切れず、服装も顔つきも見るからに怪しかっただろうから。



「水も滴るイイ女ってやつか」


「え…っ?あ…あの……」


「でも風邪ひくぞ」



あまり恐がらせないように、冗談交じりで優しく声を掛けたつもりだったが

冗談に聞こえなかった、と後々詩織は笑いながら言っていた。


どうも俺のそんな気遣いは無に終わっていたらしい。


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