シンデレラルーム 702号室


その後、雨の音にかき消されてしまいそうな小さな声で、詩織はぽつりぽつりと話し始めた。



あの黒い傘は詩織の旦那のものだった。


午後から大雨になると予報を見て、買い物に出掛けたついでに旦那の会社に届けに行ったらしい。



いつもならここまで気の利いたことはしない。

本当にただの気まぐれだったんだ、と。



それならやめればよかったと、彼女は心底後悔したに違いない。



会社に着くと、営業マンである旦那が一人外に出てきて、雨が降り始めた空を見上げていた。


これから営業に行くのだろうと思った詩織は、ちょうど良かったと傘を渡そうと一歩を踏み出した


──その時…



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