シンデレラルーム 702号室
“ユメちゃん”


それはこの世に誕生出来ずに、莉子のお腹の中で静かに息絶えてしまった命に、

“夢のような一時をくれたから”と莉子が付けた呼び名だった。


『せっかく生きていたのに名前もないなんて可哀想だよ』…と言って。



「怒ってるって…何で?」


「…もう一年以上経つけど…赤ちゃん出来ないでしょ?」



──そう、

“ユメちゃん”がいなくなって以来、俺はあえて避妊していない。


莉子が子供を欲しいと願っているから、自然に授かればと思ってる……のだが。


最初の妊娠に比べると、二回目はなかなか出来なくて莉子は少し不安を感じてるようだ。


< 179 / 192 >

この作品をシェア

pagetop