あやとり
「会社の同僚が、出産したの。それで、お祝いを持っていったのよ」
肩を竦めて見せる優ちゃん。
父の顔の険しさが消えた。
「なんだ、そうか。えらく深刻な顔をしていたから、まさかとは思ったが」
「もう。やだな。考えすぎだよ」
「お前ももう三十なんだし、お見合いしてでも結婚相手を探して、親を安心させたらどうだ」
「ごめんなさい、心配かけて。ダメな娘だよね……」
「子を心配するのが、親だからな。五月蝿く思っても少し考えてみなさい」
「うん」
父が母の病室に戻っていくのを見届けて、私は優ちゃんの隣へ行った。
「みぃちゃん」
優ちゃんは目を細めて私の顔を見た。
私は少し口を尖らせて見せた。
「あぁ、雅って呼ばなきゃ、だね」
「うん」
「本当に痩せたよね、姉さん。甲斐君とのこと、そんなにショックだった?」
何を思ったのか、彼女はふふっと笑った。
「でも、どっちにしろ、東京行っちゃうんだし、続かなかったよね」
それはほんとうに、私の口から自然に出た言葉だった。
この時は既に優ちゃんも甲斐君が東京へ行くことを知っていると思い込んでいた。