あやとり

「いつか、きいてる?」

「たぶん、年内には行くと思うよ」

「そうだったんだ」

彼女は微笑んでいた。

その笑顔は私の記憶に焼きつくものとなる。

「本気で頑張っているんだなぁ」

笑顔のまま大粒の涙を零し始めた。

「ゆ、ゆうちゃん?どうしたの?」

雫は止まらない。

初めて優ちゃんが泣くところを目にして、胸に何が刺さったように痛かった。

今まで、彼女の完璧なポーカーフェイスと美しさと優しさに、どれだけ苛立ちを感じていたか分からないのに、今、目の前にした彼女の涙に戸惑う。

「悲しんじゃないよ、嬉しいの」

戸惑いながらも、心が温度を取り戻していく。

母の病室で感じた、私の背中の冷たさは、彼女が見せた涙で温められているようだった。

このとき、初めて優ちゃんの素の感情に出逢えたような、ぬくもりを私は感じていたんだ。


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