あやとり

自分の足が給湯室に向かって歩み出したとき、そこから右手で口を押さえ、青ざめた顔で出てきた優ちゃんを見た。

彼女はそのままトイレに駆け込んでいった。

後を追うようにそこへ行くと、いちばん手前の個室で彼女が苦しそうにのざえているのが分かった。

嫌な予感が走った。

こんな光景はテレビドラマのシーンでよく見る、それではないのか。

出てきた優ちゃんは私を見て表情が強張る。 

この間の優ちゃんと父の話が頭に蘇ってきている。

産婦人科から出てきたところを見られた優ちゃん。

でも、まさか……。

「優ちゃん、吐いたの?具合悪いの?」

「みぃちゃん、来てたんだ。大丈夫よ、ちょっと気持ち悪かっただけだから。お昼にね、油っこいもの食べすぎちゃって」

舌を出して見せている。

訊こうか迷う。

でも、言葉は音になって彼女の耳に届いてしまう。


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