あやとり
「そうなんだ?R大受験することにしたの?」
お茶を入れながら、優ちゃんがこっちに顔を向ける。
「違うよ。R大じゃない」
「え、じゃあどこにするの?」
今度は母が訊いてきた。
「今はまだ内緒。学力が追いついて、合格できるラインに届くようなら、その時に話すよ」
「なんだか、みぃちゃんがしっかりして見えるわ」
しみじみと言う母の言葉は、いつもならわざとらしく聞こえてくるものだったのだろうけれど、今は少し違って聞こえるような気がする。
優ちゃんはつわりというものなのだろうか、青い顔をして、窓の外を眺めている。
明日は甲斐君が東京へ引っ越す日だ。
彼女は知っているのだろうか。
「お母さん、わたしそろそろ帰るね」
「あら、もう少ししたら、お父さんが来るわよ」
バッグを持つ優ちゃんの姿を見て、母が引きとめようとしている。