あやとり
あやとり
優ちゃんのアパートにタクシーが着いたときには、もうすっかり夜の闇が広がっていた。冬の風の冷たさは頬を刺すようだ。
「ありがとうね、雅」
「うん」
二階まで上がり、玄関の鍵を開けるとほぼ同時に優ちゃんの携帯電話が鳴り響いた。
「あ、先に入っていて」
そう告げると彼女はまた、玄関の外へ出た。
「けっこう寒いなぁ」
コートの来たまま、部屋の奥に行き、エアコンのリモコンを手にする。
スイッチを入れて、設定温度を変える。
二十八℃くらいでいいかな。
そのほうが早く暖まるよね。
優ちゃんはまだ中に入ってこない。
なにも中で話せばいいのにと思った次の瞬間(甲斐君からの電話だ)と心が騒いだ。
だから私に聞かれたくないのだ。