あやとり
大通りに向かって歩いていると、前方に人影が見えた。
すぐに誰か分かるくらい、今まで私はその姿を目で追っていたことに気付かされる。
近付いてきて、相手も私が誰か分かったようだった。
「ユウは部屋にいんの?」
「うん」
「ありがと」
甲斐君は私の横を走り抜けていった。
(ありがとうじゃないよ)
会わせたくない気持ちと、会わせたい気持ちが衝突している。
どっちの気持ちが弾き飛ばされたのか、自分でも分からなかったのに、私は振り返って甲斐君の後ろ姿を追った。
再び優ちゃんのアパートの前に辿りついたときには、もう甲斐君の姿が見えなかった。
そっと階段を上がっていく。
優ちゃんの部屋の玄関の前に来て、チャイムを鳴らすか鳴らさないか迷う。
物音がして身を屈めると、台所の窓を開ける音がした。
「いくらなんでも、二十八℃設定じゃ暑すぎるよ。少し開けるよ」
甲斐君の声だ。