あやとり

階段をゆっくりと下りながら、この間甲斐君が口にした言葉を思い出していた。

あれは、あの糸の話はあやとりだ。

ずっと前に優ちゃんが言っていたあの話だ。




向かい合える人じゃなきゃ、あやとりって出来ないでしょう

あやとり? 

うん

なんで、教えてあげれば出来ると思うよ

教えてあげられるあやとりじゃないのよ、きっと




携帯電話を出し、もう一度直哉の電話番号にダイヤルする。

「……です。お呼び出しの電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていないため、掛かりません。こちらは……」

予想出来たとはいえ、聞きたくない音声に苦笑いをする。

「こんなときにこそ、電話に出なきゃ意味ないじゃん……バカ直哉」

とぼとぼと歩きながら、空を眺めると星がいっぱい出ていた。

「あの星座はなんていうんだっけ?優ちゃん」

独り言を呟いたら、なんだか泣けてきた。



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