あやとり

「優ちゃんのアパートに居る。直哉、場所分かるよね?」

「雅のこと、一回迎えに行ったことがあるよ」

「今から迎えに来てくれる?」

男が縛られてから初めて「ああ」と声を漏らし、顔を歪めた。

「了解。もう夕飯食べた?」

直哉はこの状況を知りもせず、いつもと変わらない穏やかな口調だ。

「まだだよ」

「じゃあ、一緒に食おうよ。久しぶりに」

「うん」

「すぐ行く。待ってて」

「うん」

電話を切ると、男が身を捻りばたばたともがき始めた。

「は、はやく、警察に突き出せ。警察に引き渡してくれ」

「なんだ、急に」

甲斐君も優ちゃんも驚いている。

「早く、ここから放り出してくれ!」


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