あやとり
「く、栗木さん?いったい……」
男は直哉の顔を見ることが出来ないでいる。
直哉は転がっているナイフをも見てしまったようだ。
慕っていた先輩の思わぬ姿を目の当たりにしてりにして、直哉は呆然と立ち尽くしていた。
しばらくして、直哉はやっと、栗木の傍に歩み寄ることが出来た。
「解いてやってもいいですか?」
優ちゃんと甲斐君の顔を交互に見て頭を下げる。
「俺の先輩なんです。いい人なんです」
「直哉……」
男は直哉の顔を見ながら瞳を潤ませた。
「……お前の携帯、盗んだのは僕だ」
直哉は思い当たる節があるのか、静かに頷く。
「お前の携帯になら、優さんの妹のことが分かると思った。そこから今の優さんに繋がる何かが分かると。最初は少し知ることが出来ればいいと思っていただけなんだ」
栗木は顔を上げられないまま、鼻を啜っている。
「……俺が優さんの話に触れなければ……。だから、俺にも責任あります」
直哉が頭を深々と下げる。直哉が謝ることじゃないのに。
優ちゃんは直哉の言葉に頷いて甲斐君の背中にそっと触れた。
「解いてあげよう」
「……マジかよ」
甲斐君は納得できない表情のまま、それでもロープに手を掛け、解き始めた。